神様、天界から追放される。野に下って適当生活していたら、いつの間にか預言者になっていた件

第42話、加護を作る

　姫様の教育については、魔術師であるウイエや、一応神官である悪魔のカナヴィに手伝ってもらって、魔法が使えるレベルにした。

　まずは魔力をコントロールする術を身につけなければ、お話にならない。

　フレーズ姫は物心ついた頃には、呪いのせいですでに体が弱かったから、魔力を使うトレーニングなんて以ての外。当然、魔法など教えてもらえるはずもないから、一からのスタートである。

　とはいえ、今から一からやっていたら、完成するのがいつになるかわかったものではない。せっかく一人前になっても、もうお外で活躍する歳ではなくなっている……なんて可能性もある。

　生まれてつい先日まで、損をしてきた分、加護を与えてもいいだろう、と元神である私は思うわけだ。

　幸い、私はフレーズ姫や一部からは、神の力を下ろして、授けることができる預言者という扱いらしい。だから大っぴらに人前でやらなければ、フレーズ姫の目の前でやろうとも構わないだろう。

　さて、どんな加護を与えようか。フォリアには、あらゆる文字を理解し、解読できる力を与えた。フレーズ姫の望みに会う形は、果たしてどんなものがいいか。

　光属性の全ての魔法を習得、使用できる、とか？

　治癒、浄化のほか、防御、攻撃、補助と魔法のバリエーションも多く、大抵のことができる。

　人を癒す力、魔を祓う力、浄化する力。

　以上の三つの条件を全て満たせる。この光属性の魔法使用を基本に考えてみよう。

　特に力の強さに言及はなかったが、私がネサンの村でやったレベルは最低限求められているとは思う。

　つまり、ただ全て使える、ではフレーズ姫の求めるモノにやや不足していると言える。

　効果・効力アップ。上限は……いや、効果無制限というわけにもいかない。制限をつけないと、それこそ恐ろしいことになるだろう。

　たとえば、光の攻撃魔法を制限なしに使って、町一つ、城一つ吹き飛ばせてしまったら……その力を求めて人が争うことになるに違いない。

　地上世界のことをあまり知らない私でも、力を求めた人類の愚かしい行動の一つや二つは知っている。そういうのは、フレーズ姫が求めているものとは違うだろう。

　……そういえば、人は魔法を使う時、魔力を消費するんだったな。魔力量の総量の多さは、優秀な魔法使いになる素質の一つと言われているのはそれだ。

　私の与えようとした光属性の魔法全て使用可能、そして効果制限は、そのあたりで改造していこう。

　基本形は、特に魔力も消費せず、使いたい放題という解釈だったのだが、ここを弄ることで、強すぎる魔法に制限を与える。

　一定の威力、規模の魔法には相応の魔力を消費する、とすれば、過剰過ぎる力で、他者から狙われたり、利用されるのは避けられるだろう。

　こういうモノ作りは、私に合っているのか中々面白いものだ。ああでもない、こうでもないと調整を加えつつ、モノが完成したので、早速フレーズ姫に届けてあげよう。

　私は部屋から出て、図書室へ行く。フレーズ姫は魔術について書かれた本を熟読していた。向かいの席にウイエが本を積み上げて読んでいて、別のテーブルにはエルフのエルバがこちらも読書中だった。

「フレーズ姫」

「ジョン・ゴッド様！」

　私が手招きすると、フレーズ姫は静かに椅子を引き、こちらへやってきた。

「ちょっと渡したいものがあるから、来てくるかな？」

「もちろんです」

　人前でやると、また周りがうるさいからね。元来た道を引き返し、自室へ戻る。

「失礼します」

　フレーズ姫は一礼してから、私の部屋に入った。そんなにかしこまらなくても、怒りはしないよ。

「こちらが、ジョン・ゴッド様のお部屋……」

「入ったことはなかったかね？」

「はい、初めてです！」

　そうだったかな。いってもバルコニーに通じた窓兼ドアがある以外は、ベッドにテーブルの椅子、書棚とクローゼットがあるくらいで、特に珍しいものはない。

「それで君を呼んだ理由だけれどね。大いなる神様が、君に加護を与えると言っているので、それを渡そうと思ってね」

「そ、それは神託！」

　フレーズ姫がかしこまった。

「しかも、わたくしにですか！？」

「生まれた時から不運に見舞われたからね。それでもめげずに前向きに努力する精神に、神は感嘆なさっておられた」

「こ、光栄です！　でも、まさか天におらす大いなる主様が、わたくしにお慈悲をかけてくださるとは」

「神様は見ているということだね」

　少し適当に言ってみた。この辺りのことは、嘘でも本当でも割とどうでもいい。

「では膝をついて」

「はい」

　フレーズ姫は片膝をついて、自然と祈りの姿勢をとった。前回の呪いを取り除いた時と同じだ。

「大いなる神は、汝、フレーズ・ソルツァールに光の加護を授ける――」

　うんたらかんたらと長い口上は好きではない。ということで、私が作成した光属性の全魔法使用可の加護を与える。フレーズ姫の体に、淡い光の球がスッと吸い込まれる。

「……終わったよ」

「はい」

　すっと目を開けて、立ち上がるフレーズ姫。しかし特に変化を感じられないとばかりに、目をキョロキョロさせている。

　では、説明しよう。

「君は、加護によって、全ての光属性の魔法が使えるようになった」

「！　す、全てですか！？」

「その通り。適当な魔術の本に書かれている光属性の魔法でも、君が何かの弾みで思いついた光に関係する魔法でも、何でも、だ」

　しかも軽いものなら、魔力も消費しないというものだからね。効果にこだわらず軽いものだけ使うなら、光属性の魔法使い放題だ。

「魔法さえ覚えれば、私がネサンの村でアンデッドを浄化し、村人たちを助けたことくらいのことが、君にもできるようになった」

「あ、あぁ……なんて」

　フレーズ姫は両膝を床についた。

「感謝致します、ジョン・ゴッド様！　あなた様はわたくしにとって、大いなる主様そのものです」

「大いなる主様は、私ではないから、そこは間違えないように」

　主神様は別にいるからね。そこをはっきり言っておかないと、私が主神様を騙っているようで大変よろしくない。

「さっきも言ったけど、神様は見ているからね。君がそのまま清らかな心を持ち続けること、神への感謝を忘れなければ、君に加護を授けた神様も喜ぶだろうね」

「はい、お言葉、わたくしの胸にしかと、刻んでおきます」

　……うん、まあ、いいか。とにかく、これまでの君の不運に耐える人生は終わったから、存分に活躍してくれ。

　もう神様ではないが、神様らしいことをして、少し気分がよくなった。