第32話、職人たちがやってきた


 私の家も随分と賑やかになってきた。

 ウイエが我が家と王都を往復する生活をしているが、今回フレーズ姫と、あと二人新顔を連れてきた。


 しかも人間ではなかった。


「はじめまして、ジョン・ゴッド殿。自分は魔道具職人をしているエルバと申します」


 すらりと背の高い好青年。しかし耳が尖っている。これはあれか、エルフか。


「は、はじめまして。リラと申します、です」


 こちらは背の低い少女。しかし割と手足ががっちりしているようで、耳がやや尖り、肌の色から察するにドワーフではないか。

 エルフのエルバは、流暢に語る。


「ウイエ殿から、貴殿が優秀な知識と技術をお持ちと伺いました。つきましては、研鑽の機会をいただきたく、不躾ながら参上いたした次第」

「そうか」


 上辺はいくら取り繕っても、内心は何を考えていることやら。エルフといえば表情と考えが一致しないことが多々ある難しい種族だったはずだ。


 長寿で美形。外見すらすでに詐欺と言える若さ、年齢詐欺。しかし私の見たところ、邪なものは感じず、ただただ何があるのだろうという好奇心でいっぱいのようだった。

 ちらちら、私の家を見ているので、その辺りからすでに期待値が高まっているのかもしれない。


 対して、リラというドワーフだが……。おや、すでに視線が違う方向に向かっている。庭で動いているゴーレムの方に注意が向いている。


「それで、リラは、どういう立場で来ているのかな?」


 職業を聞いていないが、ここに来たのはそれ絡みなのだろう? 私が、連れてきたウイエを見ると、女魔術師は答えた。


「彼女は機械職人よ。見ての通りドワーフだけれど、古代文明時代の遺跡発掘が得意で、機械やそれに近い魔法生物――ゴーレムなどにも詳しいわ」

「なるほど。そのようだね」


 すでにゴーレムを注視している。と、エルバもまたそちらに注目していた。まあいいか。


「フレーズ姫、ご無沙汰です」

「お久しゅうございます、ジョン・ゴッド様。お陰様で、この通り体調はとてもよろしいのです」

「それはようございました。こちらは長くなりそうなので、先に上がってお休みください。……ウイエ、よろしく」


 ということで、姫とウイエを先に家に上げて、私は、エルバとリラを庭にいるゴーレムのもとへ連れて行った。


「紹介しよう。うちで保有しているアダマンタイトゴーレムのゴーちゃん――」

「あ、アダマンタイトォっ!?」


 エルバが、大声を出した。エルフとは物静かなイメージがあったのだが……こんな声も出せるんだな。


「そ、それは本当なのですか!?」

「嘘は言っていないよ。調べればわかる」


 ゴーレム専門家のリラは声もあげずに微動だにしていない。さすが専門家……ん?


「……」

「気絶していますね……」


 エルバが、リラの様子を見て言った。えぇ……気絶ぅ?


「何で気絶した?」

「わかりません……。でも、アダマンタイト製のゴーレムなんて、自分は聞いたこともありませんから、それなんじゃないですか? ドワーフのことは知りませんが……」

「はっ!」


 お、意識と取り戻したか。のっしのっしと歩いてくるゴーちゃん。客人の前で立ち止まると、頭を下げた。


『ハジメマシテ、オ客人。ゴーちゃんト申シマス』


 ゴーレムの挨拶に、二人は硬直した。


「!? ご、ゴーレムが喋ったぁぁーっ!?」


 エルバの反応が、どこかの誰かさんを思い出した。一方のリラは声も上げず、ゴーちゃんを見上げて――


「また気絶していますね……」


 しっかりしろ専門家。



  ・  ・  ・



 家の中にエルバを案内した。魔道具職人であるエルフは、我が家の家具に狂喜していた。……私の中のイメージしていたエルフ像が崩れていく。


『この魔法照明、まるで昼のように眩しい。何てことだ!』

『冷蔵庫! なるほど、こういう形にすれば、冷やせる量を増やしてスペースの節約、効率化を図れるな!』

『火力を調節できる魔力式コンロ! これは新しい!』


 よく喋るエルフだ。本の知識もあまりあてにならないな。エルフは無口な傾向にある? 本当か?


「あぁ、こんなものを見せられては、自分も作りたい! イマジネーションが……、創作意欲が高まるぅぅーっ!!」


 こういうのって芸術家タイプというやつだろうか。私の下界についての半端知識では、うまく言えないが。


「ここにあるものは、機能だけでなく、調度品としてもセンスが素晴らしい。友人の建築家にも見せて、ぜひ感想を聞きたい。彼もこれを見れば絶賛するでしょう!」

「ありがとう」


 要するに異世界式家具をチョイスした私の感覚を褒めてくれたのだろう。悪い気はしないね。

 次に図書室に案内すれば。


「おおっ、これは。何だこのような書物が。あっ、あっ――」


 言葉がおかしくなっているぞ、エルバ君。彼は本棚にある本を見て、圧倒されていた。当然というべきか、魔道具関係の本を見つけて開く。


「なんと! 絵に色がついている上に、まるでそのまま本に埋め込んだかのように精巧だ……! どういう風に作ったのだ、これは!」


 異世界式だ。私も知らん。とりあえず、変な声をあげながら子供のように魔道具図鑑を読み込んでいるので、私はそっと場を離れて、リラの様子を見る。

 彼女は庭で、ゴーちゃんに肩車されていた。……体のせいか、子供みたいだ。それはともかく、彼女たちが見ているのは。


『コレハ、遺跡ニアッタ物カラ、主サマガ作ラレタ飛空艇デス』

「飛空艇! 遺跡っ!?」

『飛空艇ハ、ゴ存ジデスカ? コレハ空を飛ブ乗リ物デス――』


 ゴーちゃんが説明をしているが、リラの反応はない。私は後ろ姿しか見えないのだが、たぶんまた気絶しているんじゃないかな?


 しかし、ドワーフって頑丈かつ、精神も図太い種族だと聞いていたのだが、何なのだろうね。これも個体差というやつなのかね。


『主サマ』


 気づいたゴーちゃんが振り返った。


「ああ、やっぱり気を失っていたか」


 リラはゴーちゃんの肩の上で気絶していた。私は肩をすくめた。

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