第30話、悪魔シスターから事情聴取
かつて女神だったというカナヴィ。以前、天界で追放神だった私から、地上へ落とされたらしい。
どうやら仕事ができない手合いで、またあまり好ましくないタイプの異世界干渉を行ったのが原因で追放されたらしい。
……正直覚えていない。この手の神を追放するのが私の仕事で、言ってみれば、いつものやつだから、特別に記憶に残らなかったのだろう。
もちろん、記憶のアーカイブから引っ張り出せば、思い出せるだろうが、その必要もないだろう。
私はもう追放神ではないし、過去の事例と今の状況を照合するような場でもない。
元女神カナヴィは、違反追放なので、神としての力はほぼ失われている。魔力を操作したり、魔法を使う程度はできるらしく、現在悪魔として活動しているという。
神が天界から追放されて、力を失い、悪魔などになるのもこれまたよくあるパターンである。珍しくもないから、やはり記憶に残らない。
その悪魔にしろ、よっぽど世界にとって害にならない限り、特に干渉することはない。目に余れば、人間などを利用して討伐させたり、それが敵わないレベルなら、執行神が処分に向かう。
なお執行神は、神をも実力行使で罰する存在ゆえ、恐ろしく強い。そういうことだから、元神、元女神で悪魔に堕ちた者たちも、それに引っかからない程度に悪さをしたり、好き勝手にやっていたりする。
……正直、百人単位で呪いをかけてました、程度で執行神が降臨することはない。
閑話休題。
私は、カナヴィから、ソルツァール王国王族を巻き込んだ闇の魔術騒動の件で事情聴取を行った。
「――別にぃ。お姫様とは知っていたけど、王族の誰でもよかったなー、ってやつだったと思うわ」
カナヴィが言うには、フレーズ姫の名もなき病――呪いをかけたのは間違いないらしい。ただ個人的に恨みがあるとかではないという。
「イリスの母君、第三妃の病死の件」
「それはワタシの預かり知らないところだわ」
カナヴィは口を尖らせた。
「ワタシも、彼女のことは知ってるわよ。会ったこともある」
「ほう」
いつからこの世界にいるのか知らないが、カナヴィは第三妃と面識があるようだ。
「ただしょーじき、そばにいると、こう虫酸が走るというか、背筋がゾワゾワして、近くに居たくなかったのよねー」
「……それで気にいらないから、呪い殺した、と」
「ちょっとちょっと、それ違うし。落ち着かないから、そばに近寄らないようにしていたのよ。あれ、たぶんどこかの神が悪魔除けの加護でもしていたんじゃないかって思う」
「なるほど」
それで悪魔をやっていたカナヴィが、近づきたくない反応が出てしまったわけか。……いるんだよな。気に入った人間に、何らかの加護を与える神様が。よっぽどの過干渉にならなければセーフだが、度が過ぎると罰則対象である。……と、つい追放神時代の癖がでてしまった。
「それで会わなくなってしばらくして、病気で死んだと聞いたわ。まあ、加護といっても、悪魔除けくらいだったということね。ワタシが知っているのはそれだけ」
「そうか」
つまり、フレーズ姫の件は、カナヴィの気まぐれ。イリス母の件は、カナヴィとは別件。この悪魔シスターは陰謀とはまるで無関係ということだ。
「話はわかった。ありがとう」
「どういたしまして。……ねえ、ジョン・ゴッド。ここがアナタのアジトなのよね」
「それが何か?」
「ワタシもここに出入りしていい? すっごく居心地がいいのよねぇ」
悪魔シスターはソファーにだらしなく寝転がって、意味深な視線を向けてきた。……あー、これが色仕掛けというやつか。勉強したぞ。
「悪さをしなければな」
「しないしない。したら出禁になっちゃうでしょー?」
弁えているのはよし。
「お前も、落ちたとはいえ元女神だろう? これくらいの家くらい自分で作れるだろ」
「いやー、それが、そっち方面に才能ってのはないみたいなのよね、ワタシ。力だって、ほとんど無くしちゃった状態で放り出されたからねぇ。……誰かさんの、お・か・げで!」
「それは規則だからな。日頃の行いだろう」
追放神は仕事であって、何もなければ顔を合わせることすらない役職だ。それにお世話になるということは、つまりはそういうことだ。
「あー、ムカツク。……でもいいの、ここのレモーニジュースが最高だから」
などと現金な態度を取るカナヴィである。
創造する力を持つことが多い神だが、力を奪われ、悪魔に身を落とすものは、作ることが苦手で、もっぱら奪ったり利用したりするのが得意になるという。……カナヴィを見て、俗説は正しかったかもしれないと思う。
「ここで出入りするなら、少し協力してくれないか?」
「いいわよ。聞いてあげるから、言ってみなさい」
「イリスの母君の件だ」
「……うっ」
露骨に嫌な顔をした。彼女の生前は避けていたという話だったからな。
「君が何かしたわけではないというのはわかった。気になるのは、他の何者かが関わって、故意に命を奪った場合だ」
「王族や貴族によくある陰謀ってやつじゃないの?」
カナヴィは真顔だった。
「この手の話なんて珍しくもないわ」
「だろうね。私が言いたいのは、イリスは母君の死を不審に思っている。その辺り、どこの誰かが関わっているにしろ、本当に病気のせいだったのか、そこを白黒はっきりさせたいということだ」
「で? ワタシにそれを調べろと?」
「調べてくれたら、嬉しいな」
私はにっこり顔。しかしカナヴィは何故か引いた。
「うっ、気持ち悪いわね。……でもいいわ。貸しよ」
「ここに出入りするための条件ということで、帳消しな」
「はいはい、わかったわよ」
カナヴィは肩をすくめた。
「でも、アナタ、そういうの神の力で視えたりしないわけ? ワタシより力あるんでしょう?」
「奪われてないだけで、制限はあるからね。地上で何でもできるわけじゃないさ」
「ま、一応アナタも追放だものね。そりゃそうか」
悪魔シスターは納得した。
・ ・ ・
ということで、カナヴィが私の家に以後出入りすることになった。
人前では、美人のシスターなので、フォリアは普通に頭を下げていたし、イリスも少々警戒するような目ではあったが、受け入れた。ウイエも特に反応はなかった。
しかし見た目は清楚、ソファーでくつろぐ時はだらしなく、飲み物をたかってくるので、自然と『この人、普通の人じゃないんだ』と一同が理解するのに、さほど時間はかからなかった。
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