第28話、闇の魔術と過去の因果関係?
フレーズ姫がお帰りになり、それをウイエが王城までお送りした。彼女には、王城まで転移できるよう転移石を新しくしたので、問題はない。
「……で、イリスは、結局フレーズ姫と顔を合わせなかったな」
「別に。会っても話すことないし」
イリスはそっぽを向く。第一王女と第七王女。特に不仲とは聞いていないが、イリスがフレーズ姫に関してのことを話す時のそれは、あからさまに不機嫌だった。
友人のウイエでさえ知らない、確執のようなものがあるかもしれない。……まあ、私には関係のない話だが。
「それより、彼女に何をしたの?」
「何を、とは?」
はて、私は何かしただろうか? お土産に大型鳥型ゴーレムをあげたことか? それとも呪いを解いたことか?
「疲れたって休んでいる彼女に、何か魔法をかけていたわよね?」
「あー、呪いの件ね」
直後元気になったフレーズ姫はフォリアと遊びに行ったが、ウイエから何をしたのかと問い詰められた。イリスはその場から離れていたが、私が力を使ったのは見えたらしい。まあ、光っていたからね。
「この説明も二度目になるけど、フレーズ姫はとある魔法にかかっていたんだよ」
「魔法?」
「いわゆる、生命力を吸収される魔法」
この世界では、闇の魔術に類するもので、悪魔が使う呪いに近い魔法だ。
「幼い頃に、悪魔か何かに術をかけられたんだろうね。これは対象から生命力を吸い取る魔法で、基本的にはかけられた人や生き物を殺すものではない。例の奇病は、大半が闇の魔術が原因だ」
「……! それが、彼女の病の正体なの!?」
イリスが目を丸くした。原因不明の名前のない病の正体、それが悪魔の仕業だったというのは、衝撃的な事実かもしれない。
「どうしてそれを知っているの?」
「真実を見抜く目があるからだよ」
私は自身の目を指さした。こちらの世界では鑑定というのかな。まあ、そんなところだ。
イリスはにわかに信じられないという顔をしながら、それでも自分なりに事実を整理しようとしているようだった。
「……じゃあ、あの光は、その呪いを取り除いたもの?」
「庭でフレーズ姫に使ったものか? あれは、闇の魔術で奪われていたものを取り返したもので、病自体は、ウイエが作った治療薬で解除されていたよ」
幻の薬草を使った薬は、きちんと治したわけだ。ただそれまで奪われたものまで取り返すものではないからね。そこから先は私の力で、取り戻しただけだ。
「それはそれとして」
イリスは難しい顔になった。
「まさかあの病が悪魔の仕業だったなんて。これまでもあの手の原因不明の病は悪魔が……?」
「おそらくね。全てがそうだったかについてはわからんが、大半はそうだろう」
「でも、どうしてフレーズ姫が、闇の魔術に……」
「さあね。その悪魔が気まぐれに選んだ対象だったか……あるいは高位の魔術師が悪魔を召喚して、その術を借りた可能性もあるね」
「召喚……?」
イリスが訝り、そして気づく。
「それって、人間が王族に害を与えるために悪魔を呼び出してあの病を使わせたってこと?」
「可能性の話だ。実際にそれができる者がいるかは、別の問題だよ」
私は、適当に言っているからね。確証はないよ。
「どうしたね?」
「私の母は、原因不明の病で死んだの」
イリスは真顔だった。……えーと、彼女の母は第三妃だったっけか。
「原因不明というか、呪いだったという話もある。もしかして、フレーズに闇の魔術をかけた奴だったり?」
「それを私に聞くのか?」
いったいいつの話なんだ? 話を聞いただけでわかるものか。
「どういう状況で、実際に目にしていないから何とも言えないよ」
「……それもそうね」
イリスは視線を逸らした。
「何となく、頭の中で、人間がやったのなら、もしかしたら同一犯だったんじゃないかって思っただけ。特に証拠もないし、思いつき」
その長い髪に指をかけ、考えに沈むイリス。……ふむ。
「君は、母親が病死ではなく、他殺を疑っているのか?」
「治癒魔法では回復しなかった。悪魔と聞いた時、お母様が病気になった原因が、悪魔の討伐直後の傷が原因とも言われていたのを思い出したのよ。だから――」
「もしかしたら、悪魔の呪いだったかもしれない、と」
コクリと頷くイリス。わからない、納得できないことには、何かしら理由をつけたがるものだが、それだけイリスの中でも、第三妃の死を受け入れがたいところがあったのだろう。
「原因を知ったとして、どうする?」
私は問うた。
「それで何か変わるのか?」
死んだ者が蘇るわけではないだろう。ただ、怒りの矛先を向けたいだけ。納得したいだけではないのか?
「フレーズが闇の魔術でやられたと聞いて関連付けようとしたのは、浅はかだったわ」
イリスは言った。
「でも、何者かが仕組んだことなら、王家の中かその近くに陰謀を巡らせている奴がいるということ。それがいるとして、放置などできて?」
「王国の聖騎士だものな、君は」
ここに住むようになってから、割とぐうたらではないかと思っていたが、イリスも王国の守護者としての義務はきちんと持ち合わせているようだ。
「しかし、フレーズ姫が闇の魔術をかけられたのは、幼少の頃だろう。仮に、陰謀を企んだ者が王家の近くにいたとしても、昔の話ではないか? 二十年近く何もしなかったとも思えないが?」
「……それはそう」
イリスは考える。
「じゃあ、もうすでに目的は果たしていて、それ以降は特に暗躍していないということ?」
「仮に、そういう者が王家のそばにいたら、という話だがね」
悪魔が適当にやってきて、たまたま選んだ相手がフレーズ姫だった、という可能性だってある。
「ああ、すっきりしないわ!」
イリスから苛立ちの声が漏れた。もやっとしてしまったんだろうね。気になってしょうがない、ということだ。……しょうがないなぁ。
「どれ、ちょっと瞑想してみよう」
過去に何があったのか、見てみよう。
「ジョン・ゴッド?」
「……静かに」
心を穏やかに。精神を集中して、先ほど引っ張ってきた闇の魔術の出所を探ろう。……ふむふむ、見えてきた。
これは……女か。
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