第21話、薬草見つけたけど、帰る帰らない問題?


 ウイエが幻の薬草を見つけたと騒ぎ立てていた。ふうん、よかったね。


 そう言ったら、私の家の菜園にあったというのだ。……?


 アフスロンなんて作ってないぞ、と言ったら、彼女は、私の植えたペイラ草を指して。


「これがアフスロンよ!」


 なとど強い口調で言った。ふーん……。それ、異世界の植物なんだけどな。どれ、鑑定してみるとしよう。

 やっぱりペイラだ。しかし追記に、この世界ではアフスロンと呼ばれ、幻の薬草と言われているとあった。


「本当だ」


 ペイラ草は、この世界ではアフスロンだったんだ……!


「……まあ、何でもいいや。それは持っていっていいよ。必要なんだろう?」

「ええ、そうよ」


 お探しのものが見つかってよかったね。ウイエは複雑な表情で言った。


「あなたにとっては、これはペイラ草だったわけね。私はその名前は知らないなんだけど……なるほどね。そりゃお互いにわかってなかったんだから、目の前にあっても気づかないかー」

「……」

「で、これ、結局どこで見つけたの? 種があったんでしょう?」


 別世界から取り寄せた、と言ったら、ウイエの場合はうるさそうなんだよな。これまでのところを見ても。


「狩った魔獣の脚についていた。どこぞで引っかけたのだろうね。私は知らないが」

「なるほどね。この魔境のどこかに、アフスロンが群生している場所があるのかもしれないわね」


 とりあえず納得した様子なので、私からはそれ以上は言わない。


「それじゃ、私は一度帰って、治癒薬を作らなくてはいけない。イリス、帰るわよ」

「えっ」

「え、じゃないわ」


 何故か固まるイリスに、ウイエは言った。


「目的の物を入手したのよ。私たちには不治の病を治さなくてはいけない人が待っているの。急がなくちゃ」

「……」


 すー、と視線を逸らすイリス。どうも彼女は、帰りたくないようだ。


「えー、転移の石で魔境に入り口まで移動できるでしょう? 一人で帰ってくれないかな」

「は?」


 まさかの答えだったか、ウイエは顔を強ばらせた。何やら険悪な空気を感じたので、私は、距離をとって見守っているフォリアのもとへこそっと移動する。


「あれ、どういうこと?」

「たぶんですけど――」


 二人に聞こえないよう、小声でフォリアが応じた。


「王族の方で、どなたか重病らしいんです。それが普通の回復魔法では治らないらしくて、幻の薬草を探しに魔境に来ているんですよ」


 それで以前、探索隊が編成され、フォリアもそこで護衛として加わったのだそうだ。……それでアフスロンを探していたのか。


「王族ってことは、イリスの身内じゃないか?」


 第七王女と言っていたぞ。


「ええ、そうなんですけど……。わたしもよくはわからないですけど、やりとり見た感じだと、イリス様は王族のことをあまり好ましく思ってなさそうですよね」


 家庭というのは複雑なものなのだな。薄情ではあるが、他人の話だ。私がどうこういう問題でもない。

 視線を、ウイエとイリスに戻す。


「――私が一人で行くことは別にかまわないんだけれど、それをやると次に、またここに来られないじゃない。転移の石で魔境の入り口までなんだから、魔境を私一人で抜けてこなきゃいけなくなるわ」


 ウイエは説明した。イリスに同行を求めるのは、護衛戦力として彼女の力が欲しいということらしい。魔術師のウイエには、この魔境にある我が家に来るまで単独では厳しいのだそうだ。

 ……というか、またここに戻ってくるつもりなのね。そういうことなら。


「私、今晩の焼肉料理を、凄く楽しみにしていたのよ」


 イリスがそんなことを言った。


「昼間の獲物を、この家での美味なる調味料で仕上げて食べるのを、とても、とても楽しみにしていたの。その前に帰るなんて嫌だし、明日の食事も味気ない外の料理は嫌なのよ」


 ……えー。


 聞いていたフォリアが引いていた。

 王国最強の聖騎士でお姫様は、我が家の食事をとても気に入っていたようだ。魔境の外の料理って、そんなに格落ちなんだろうか。仮にも王女様が、食事一つで駄々をこねるほどとは。


 身内の心配より食い気では、フォリアが引くにも仕方がないが、これは本当に王族といっても不仲説あるな。


「ウイエ」

「なに、ジョン・ゴッド」


 少々不機嫌なウイエ。駄々姫様の説得にイライラが募っている様子。イリスほど強ければ、一人で森を抜けることもできるから、こういう言い争いにはならないだろうが。人の強さというには、一日二日でどうにかなるものでもないからね。


「転移の石を出しなさい」

「え? まさか、取り上げる気?」


 ウイエは警戒感を露わにする。そんなんじゃないよ。


「転移の場所をここにも転移できるように調整しよう。それなら、ここに戻ってくる時も一人で安全に戻ってこれるだろう」

「! そういうことなら。ごめんなさい、私疑ってしまって」

「いいさ。気にしてない」


 本当に気にしてないから。ウイエが大事に懐に忍ばせていた転移の石を受け取り、ちょいちょいっと転移魔法を書き換え。うっすらと光る文字を刻んでいく。


「今、何をしているの? ひょっとして魔法の――」

「新しい位置を入れた。魔境の入り口と、ここの庭先に転移できるようにしたから、使う時は、移動したい方を思い浮かべて」

「ありがとう! ジョン・ゴッド、あなたって最高よ!」


 言うなり、ウイエは私に抱きついた。お、おう。これがハグというやつか。中々どうして、激しいね。


「じゃあ、私は一度帰って、問題を解決してくるわ。何日か後になるとは思うけれど、また戻ってくるから、その時はよろしくね!」


 とても上機嫌になったウイエは、そう言うと私とフォリアを見て、「またね」と言うと転移で消えた。まるで嵐のような最後だったな。


 ポカンとしているフォリア。イリスは少々ご機嫌斜め。さて、いつまでも立ちっぱなしも無駄だし、動こうじゃないか。


「フォリア、夕食の支度を。イリスがお待ちかねのようだからね」

「はい! イリスさん、急いで作りますね!」

「私も手伝う!」


 気分直しなのか、珍しくイリスが手伝いに動いた。さっさと作って、美味しく食べて、ゆっくり湯船につかって癒しにひたろう。


 ウイエは帰ったが、薬草を使って重病の王族が完治するといいね。

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