第19話、遺跡の地下の瓦礫の山


「貴女が騒ぎ立てたせいで、モンスターが寄ってきたじゃない!」


 イリスが聖剣で、飛び掛かってきた牙猿を斬る。遺跡辺りにいたらしい白い毛並みの大型サルが群れで向かってきた。


 私は、向かってきた牙猿を光剣で溶断。左手を、側面に回り込んで投石しようとしていた牙猿に向け、圧す! 吹っ飛び、木に叩きつけられて絶命する牙猿。


 魔術師のウイエを囲むように、私とイリス、フォリアがそれぞれ立って、襲撃者たちを撃退する。


「最初の勢いだけだったな」


 勢いで相手をビビらせて押し切るつもりだったのだろうが、前衛があっさりやられていくものだから、耐えきれなくなって牙猿たちは四方に散って逃げた。

 イリスが振り返った。


「みんな、大丈夫? 怪我はない?」

「大丈夫です」


 フォリアが返事し、私も頷きで返した。牙猿は集団戦を得意とするが、勢いで制圧できなければ、私たちの敵ではない。


 牙を剥いてきた魔獣を払い除けたので、探索を進めよう。

 古代ハルバナ文字をフォリアが読んだことにウイエが素っ頓狂な声を上げたせいで、牙猿を刺激してしまったようだ。


 猿たちはこの遺跡周りを縄張りとしていたようだ。迷い込んだ、あるいは誘い込んだ他モンスターをはめて殺した跡をいくつも見かけた。


「ここは、彼らの狩り場だったようだ」


 住み家だったから侵入者に襲いかかったのではなく、飛び込んだ獲物と見て襲ってきたのだろう。ウイエが大声を出したことで、彼らは罠を見破られたと飛び出してきた、と。


「じゃあ、私の声はむしろ役に立ったわけね?」


 ドヤっとするウイエだが、イリスは睨んだ。


「今回はたまたまよ。いつもそうとは限らないから注意して」


 廃墟。かつての文明の跡を見て回る。魔境に、こんな場所があったんだなぁ。物珍しさからキョロキョロとしてしまう。

 それはフォリアも同じようで。


「わたし、こういう遺跡って初めてなんですけど、ここって未発見の遺跡ということになるんですよね?」

「そうなるわね」


 ウイエは、半壊状態の建物の跡をじっと見やる。


「イリス姫。魔境に古代文明の遺跡があるという伝説とか、何か知っている?」

「いいえ。私は知らないわ」


 聖騎士は首を横に振った。


「少なくとも、ここに来たのは、私たちが初めてじゃないかしら」

「じゃあ、お宝とかあるんですかね?」


 フォリアがそわそわしながら言った。ウイエはニンマリした。


「遺跡にもよるでしょうけど、人が入っていない場所だから、残っている可能性はあるわよ」

「ですよね!」


 声を弾ませるフォリアである。……ふむ。


「楽しそうだね、フォリア」

「そりゃあもう! 冒険者にとって、未発見の遺跡の探索はロマンですから!」


 そういうものなんだな。


「ちなみに、こういう場のお宝の定義は?」

「人によるんじゃないかしら?」


 ウイエが下への階段を指さした。遺跡に地下があるようだ。


「歴史を調べている人からしたら、崩れた建物だろうが、欠片だろうが全部お宝でしょうし、私たち魔術師にとっては、古代の魔法に関する資料やマジックアイテム。冒険者なら、わかりやすく金銀財宝とか、魔法金属製の武器とか――」


 言いかけて、女魔術師は笑った。


「魔法金属製の武器なら、ジョン・ゴッド、あなたが作ったものの方がよさそうだけれどね」

「貴方は、興味ないの、ジョン・ゴッド?」


 イリスが聞いてきた。私は地下への階段を降りつつ考えた。


「……うーん、物珍しさはあるが、どうだろうな」


 武器なら作れそうだし、金銀財宝と聞いてもピンとこない。綺麗なものなら、鑑賞すると気分がよくなるかもしれない。


 地下に降りると、広い空間に出た。入って右手に外へ通じる大きな開口部があった。こちら側はこうなっているのか。魔境のどこかに大穴が開いていて、それが繋がっているのかもしれない。


「お師匠様」


 フォリアが、空洞の中央にある金属の山を見やる。


「これ、何でしょうか?」

「さて……」


 なんだろうね。なにやら金属製の板やら何やらが散らかっているようにも見える。イリスが近づいた。


「これ、船じゃない?」


 そういって、山の中にある比較的大きな物体を指さした。ウイエも頷いた。


「あのカーブを描いている部分なんか、船首みたいよね。……フォリア、さっきあなた、ここのハルバナ文字を読んで、『空とぶ船』がどうのって言ってなかった?」

「言いました!」


 フォリアは目を丸くした。


「これが、その空とぶ船なんですか!?」

「いや、わからないけれど、船って言ったらそれかな、って」

「一理あるわね」


 イリスは、鼻をならす。


「ここに海や湖があるわけでもないし。船があるとすれば、水の上ではないところで使うものじゃないかしら。今は、瓦礫の山みたいだけれど」


 空を飛ぶ船か。そういえば、大昔に飛空艇とか飛んでいた時代があったような。昔過ぎて、私もうろ覚えだが。


「もしそうなら、使えるようにしたいな」


 空から世界を見るのも面白いかもしれない。イリスが口を開いた。


「空を飛べたら、まあ便利なんでしょうけど……」

「さすがにこの状態じゃあ、ねぇ……」


 ウイエも懐疑的なようだった。お師匠様――とフォリアが私を見た。


「直せそうですか?」

「何とかできるんじゃないかな」


 知識の泉もあるんだし。


「「え……?」」


 イリスとウイエの声が重なった。それを無視して、船というその残骸に近づき、乗り込んでみる。知識の泉を開き、飛空艇とやらの情報と呼び出す。それと瓦礫の山の部品らしきものを見比べならが照合し、構造を把握する。

 内部の作りと、船を飛ばす部品とその仕組み……ふむふむ。


「よしよし、理解した。――じゃあ、作るか!」


 私のやりたい気分が盛り上がってきたからね、しょうがないね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る