第17話、お出かけしませんか?
起きると、窓から空が明るくなりつつあるのが見える。
私は日の出か、その直前に起きるのが一日の始まりとなる。寝間着から着替えて、部屋を出る。
三階の私の部屋から、二階への階段を降りると、早起きのフォリアがキッチンで朝食を作っている。
「おはようございます、お師匠様」
「おはよう、フォリア」
「ジュースにしますか? こーひー、それともお茶にしますか?」
「今日のジュースは何かな?」
この辺りのやりとりは日課のようなものだ。カリカリに焼けたトーストとフレッシュなジュースが朝食の定番になりつつある。
知識の泉で作った魔道具のトースターを、何だかんだ滞在しているウイエが解体、調査したがっていたのは失笑ものであるが。
「では、いただきます」
私とフォリアは向かい合いに席について、朝日の差す森を見ながら朝食。イリスはお寝坊だし、ウイエは夜遅くまで図書室の本を読んでいるので、この時間には起きてこない。
それはそれとして、この朝食時に今日の予定などを話したりするのだが、私はフォリアに提案した。
「魔境探索に出かけない?」
「探索ですか?」
キョトンとするフォリア。私は頷いた。
「ウイエが来て、そういえばこの魔境のことでは知らないことが多いと気づいたからね。少し探索をしてみようと思った」
「薬草を探すのですか?」
「いいや。それはウイエのやることだから」
彼女がここにいるのも、魔境での幻の薬草探しが目的である。私の目的でも、役目でもない。
「頼まれていないことはしないよ。……まあ、見かけたら採集はするけど」
それくらいはしてもよい。そう言ったら、フォリアはニッコリした。私にとって彼女の笑顔は癒しだ。
「わたしもご一緒してもいいんですか?」
「強くなりたいって君は言っていたが、実戦もしておかないと成長できないからね」
私があげた武器があれば、敵前でヘマをしなければ、大丈夫だろう。アダマンタイトゴーレムのゴーちゃんと訓練をはじめて日も僅かしかたっていないが、何事も経験だ。
最初は武器の性能のおかげで、彼女の実力ではないかもしれない。だが経験を積んでいけば、武器の強さに頼らない戦い方もできるようになるだろう。
どういう形でも生きて、経験して学んでいけば、自然と強くなっていくものだよ、うん。
「ありがとうございます。ご一緒させていただきます。それで、いつ行きましょうか?」
「昼食の後がいいんじゃないかな」
「わかりました!」
ということで、魔境探索をすることが決定。私としては、ちょっとした散歩気分である。
・ ・ ・
昼前になって、イリスが起きてきた。
普段がしっかりしている美人だが、ここに住むようになって意外とルーズな姿を見せている。寝癖直しも最低限、服装も完全にラフなもの。ウイエ曰く、お姫様が人様でしてはいけない格好らしい。
ソファーでまったりしながら、フォリアが用意したジュースを飲む。これが彼女の朝の日課。王女様は、我が家のフルーツジュースがお気に入りらしい。
「魔境探索?」
「せっかくフォリアに武器を用意したからね。試し斬りってやつだ」
「それで、私にも同行しろ、と?」
気怠けにイリスは言った。どうしてそうなる?
「いや、我々が出かけるというだけの話だ。来たいなら別だが、そうでないなら、好きにしていていい」
「そう……」
イリスは自身の目元を手で覆いながら、天を仰いだ。
「ごめんなさい。こういう危ない場所に行く時、いつも私にも同行を求められるから、つい、癖でね」
「そうなのか。――ああ、聖騎士だったな。そうか、それか」
「そういうこと」
イリスは目元を隠していた手を下ろした。
「魔境に住んでいる貴方たちに言うのは野暮だと思うけれど、大丈夫よね?」
「大丈夫とは?」
「私がいないと、やられてしまうとか、そういうこと」
何とも自信過剰だね、君は。まあ、フォリア曰く、イリスの武勲は国中に知れ渡っているらしいから、そういう風になってしまうかもしれないな。
「君に頼る必要があれば、そう言うよ。つまりは、そういうことだ」
それよりも。
「ウイエに声をかけたら、来るだろうか?」
「……来るんじゃない。あの子、薬草を探して魔境に来ているから、探索に出ると行ったら間違いなく同行すると思う」
「となると……そろそろ起こしたほうがいいかな」
私がフォリアを見れば、彼女は頷いた。
「起こしてきます」
放っておくと、夕方に起きてくるなんてこともあり得る。探索から帰ってきた時、ウイエから『どうして誘ってくれなかったの?』といわれるのも面倒そうだ。
「ジョン・ゴッド」
「何だね、イリス」
「私も行くわ」
自身の長い金髪を手で払いながら、王女は言った。
「一応、私、貴方を監視するって名目でいるわけだし、さすがに初回から見ないというのは、よろしくないわ」
「好きにすればいいさ。ここじゃ君は自由だからね」
「……そう、自由なのだわ」
イリスはソファーでノビをした。
「自由過ぎて、鈍ってしまいそう。……ジョン・ゴッド」
「?」
「ここは、いいところよね」
大窓から見える静かな魔境の森を、イリスは見つめる。一瞬見えた疲労は、心の疲れか。聖騎士の仕事はどうやら激務であり、ここで彼女がまったり過ごしているのはその反動なのかもしれない。
そこで、ドタドタと場違いな騒がしさと共に、ウイエが起きていた。
「ジョン・ゴッド! 魔境探索に行くんですって!?」
フォリアからそう聞いたんじゃないのか。
「そうだ。よければ君もどう?」
「行くわ!」
即答だった。
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