第11話、菜園とゴーレムを作ってみた


 一人でいると気づかないことが、誰かと過ごすことで思いついたりすることがある。


 魔境での生活は、私なりにのんびりできる場所を作ったつもりでいたが、彩りが足りない。

 言ってみれば、殺風景なのだ。空虚だったのだ。


 人間と同居することで、私は、ただ住めればいいという思考から、色々とやってみようという気持ちにさせられた。


 フォリアは私が作った図書室を喜んでくれた。文字が理解できるようになり、様々なことを意欲的に勉強しはじめた。

 私もそれにつられて、この世界や人間のことなど自主学習にも身が入るようになった。これは彼女を受け入れてよかった面だ。お互いに仕入れた知識を披露するのを、会話の楽しみにしているから、私にとっても張り合いがでてきたのだ。


「――それで、お師匠様。何をやっているんですか?」


 家のすぐそばで、作業をする私に、フォリアは興味深げに聞いてきた。


「薬草や果物、野菜を作ってみようと思ってね。家庭菜園というのかな」


 先日、この魔境にあるとされる薬草を捜しているという女性の魔術師がいた。ないなら作ってみてもいいかな、と思ったのだ。


「特に果物や野菜は、本で育て方が載っているからね。せっかくだからそれをやってみようと思ったわけだ」


 分解や再構成で、食料は作れるんだけどね。それはそれ、これはこれ。世間一般と同じ方法で作ってみるのもよいだろう。

 なに、失敗しても、これまで通りに変換で調達すればよいのだ。のんびり育てるのもスローライフがどうの、と本に書いてあった。そもそも大量生産するつもりはない。


「種は、知識の泉の力を借りて再現してみたんだがね。ものによって、生育環境も違うから、菜園のほうで調節してみた」


 同じ場所にあるように見えて、それぞれに適した環境、温度になるよう調整している。


「この列が薬草。真ん中は果物。一番外が野菜の列だ」

「出来上がるのが楽しみですね!」


 フォリアはニッコリだった。そういう表情を見ると、私も何故かホッとする。


 菜園の周りに魔除けと小動物による荒らし障壁を設置する作業を二人でやって、昼食を取る。異世界料理で、シーフードピラフなるものを作って試食する。味は悪くなかった。


 海の食材と聞いて、フォリアは『わたし、海って見たことないんですよ』と言っていた。この魔境からは海は見えないからね、しょうがないね。


 ただ、魔境に隣接するソルツァール王国の南部は、海に面している場所もあるという。天界にいた頃、遥か高みから海を見下ろしたことは多々あるが、地上から見たことはなかった。


「――いつか見てみるのもいいかもしれないな」

「そうですね」


 ごちそうさまでした。ピラフとスープ、完食。


「こんなに美味しいものを遠慮なく作れて、食べられるって幸せですねぇ!」


 ご機嫌なフォリアである。ここに来るまでの食生活はどんなものだったのか、少し興味が湧いた。


「普段は何を食べていたんだい?」

「そうですねぇ。野菜がドロドロになるまで煮込まれたスープとか、たまにご褒美で、獣の肉とか、固い黒パンですね」


 フォリアは肩をすくめた。


「わたしもここに来て知ったんですけど、調味料というのがあまりなくて、その分淡白な味のものばかりですね。こんなことを言うと、今までの料理に悪いんですけど、あまり美味しくなかったなーって」

「そうなのか」

「何というか、わたし、食事が楽しみだなって、思うことなかったんですよね。生きていくために必要な作業みたいな、そんな風に思っていたんですけど、こんなに美味しくなるなら、作るのも食べるのも楽しいかなって」


 屈託なく笑うフォリアだった。

 私も地上に降りて、お腹が天界にいた頃に比べて空くようになり、他の生き物のように頻繁に食事を取るようになった。


 味については、異世界料理で素材や調味料を知り、作って今のそれになっているが、一人で食べていた時は、確かに作業感はあった。


 でも、人と一緒に喋りながら食事すると、よくわからないが胸の奥が温かく感じるのだ。そういうのはよい気分なのだろうな。



  ・  ・  ・



 フォリアは強くなりたい、と言っていた。


 私にはいまいちピンときていないのだが、彼女は冒険者なのだという。そのフォリアの望みは、冒険者としての強さという解釈でよいだろうか。


 つまりは、彼女との初めての出会いの場で倒したドラゴン崩れのような化け物を、彼女が倒せるくらいに、ということだ。

 それは面倒く……いや、ちょっと私では難しいかもしれない。


 ということで、練習相手を作ってみようと思った。適当に魔境の魔獣を引っ張ってきてもよいが、それはそれで手間ではある。


 知識の泉から、人形図鑑や関係しそうな本を引っ張り出して、そこからパラパラとめくって適当なものを探す。

 生半可知識では、確かゴーレムとかガーディアンとかいう魔法生物、ないし疑似魂で動く人工物というものがあることを知っている。そこに答えを求めたわけだ。……ふむふむ、フーム。


 変換術で、土を必要な素材に変換。ゴーレムの心臓であり頭脳であるコアを作って……えーと。


 試行錯誤しながら部品を構成し、組み上げる。見本はいくつかあったのだが、出来上がったのは全身鎧をまとった無骨な、それでいて丸っこいシルエットになった。


「うわっ、何か立ってる!?」


 私の作業を見に来たフォリアが声を上げた。ちょうどよかった。


「ゴーレムというのを作ってみた。君の練習相手を務められるように」

「わ、わたしのためにですか!? ありがとうございますっ!」


 フォリアは私の隣にきて、ゴーレムを見上げた。


「すっごく頼もしそうですね。強そうです」

「小さいほうがよかったかな?」


 私は資料本の、サンプル図のあるページを見せた。パワー型の他に、上半身だけで足がないもの、足のある案山子のような細いものなど、バリエーションがあった。


「いえ! わたしのために、わざわざ作ってくれて、ありがとうございます」

「どういたしまして」


 これが君の役に立てばいいんだけど。ゴーレムの頭部の双眸がキラリと光った。


『ハ、ハジ、ハジメ、マシテ……』

「しゃ、喋ったっ!?」


 フォリアがビックリし、後ずさった。ああ、言っていなかったか。


「やりたいことに合わせて付き合えるよう、コミュニケーション能力を付与してあるんだ」

「ゴーレムって、喋るんですね。知りませんでした……」


 ……喋らないのか、この世界のゴーレムは。こちらの資料本には、会話機能も積まれているんだけどなぁ。


 ま、いいか。

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