第16話 雨上がりの君は世界で一番美しい

 昇降口に立っていたのは雨音だった。

 どこかを見つめている雨音に時雨は少しづつ近づく。


 どうしたんだろう、なにかあったのかな。

 

 彼女の横に行き、顔を見て声をかける。


 「あの、雨音さん?」


 時雨に気づいた雨音は少し驚いた様子だった。

 雨音は時雨に目を見て会話をする。


 「時雨君?」


 「どうしたの?帰らないの?」


 「えっとその、傘が・・・」


 下に目線をそらし手をもじもじとしている雨音。

 その様子を見て時雨は察する。


 「忘れたの?」


 「忘れたというか、誰かに持っていかれちゃって」


 「まじか」


 それは大変だな。

 いや、しかしこれはこの間の恩返しになるのでは。


 「雨音さん。この傘使っていいよ」


 「え!でもそれだと時雨君が・・・」


 「俺折りたたみあるから」


 といい、カバンの中から傘を取り出す。

 そして雨音に傘を持たせて折り畳みを開く。


 「それじゃ、また明日ね」


 「え、方向一緒だし帰ろうよ」


 「!そうだね・・・」


 二人は横並びになり校門を出る。


 これは、来たんじゃないか。

 もしかしてもしかするか?

 体育祭でかなり仲が深まったし、期待していいやつかな。


 「そういえば雨音さん、席替えどうだった?よかった?」


 「うーん。何とも言えないかな。真ん中だし、後ろがよかったな。それに比べて時雨君はいいよねー、一番後ろで」


 雨音さんの愚痴、初めて聞いたな。


 時雨は初めて愚痴っぽいことをこぼした雨音を見て、なんだかうれしくなった。


 「まあね。でも話せる人いなくてきついかも」


 「時音とかと話してみればいいと思うよ!話しやすいし」


 「時音・・・?って誰?」


 聞いたことのない名前だな。

 あ、もしかして。


 「時雨君の隣の女子だよ」


 「あーあの子か」


 やっぱりか、時音っていうんだな。

 やっとあの子の名前が分かった。


 「仲いいの?」


 「うん。クラスだと一番仲いいかも」


 「へえー」


 もしかして今回の席替え、かなりの当たりだったのでは。

 悠一の隣が雨音さんで、俺の隣が時音さん。

 まあ逆が一番よかったのは確かだが、これでも悪くないぞ。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。

 雨音さんとさらに仲良くなるためにはまず、時音さんと仲良くなるのが一番早そうだ。


 「ちなみに雨音さんの隣の悠一は、俺が一番仲いいやつだよ」


 「そうなんだ!今度話しかけてみようかな」


 よし、いいぞ。

 これならもしかしたら4人で遊ぶなんて展開もあるかもしれない。

 ただ一つ懸念点があるとすれば、悠一が雨音さんに惚れたり雨音さんが悠一に惚れたりすることだな。

 どっちかでも起こるとかなり関係がこじれる。

 それだけはどうかなさいませんように。


 傘に雨が当たる音を聞きながら雨音と歩く。

 水がはねて制服のズボンが少し濡れている。

 だがそんなことが気にならないほどに、今の時間はとても楽しかった。


 今ってものすごくチャンスなんじゃ?

 雨音さんに彼氏がいないことは確認済みだし。

 一緒に帰れてる時点でみんなよりは一歩リードだろ。

 ここで遊びに誘ったりしたら、もっと雨音さんと仲良くなれるかもしれない。

 

 「あのさ、雨音さん・・・」


 「ん?」


 言葉が出ない。

 よく考えてみたら女子を遊びに誘ったことなんて生まれてから一度もないじゃん。

 まずいどうしよう、てか断られたら今までの関係が全部壊れるんじゃ。


 「どうしたの?」


 「あ、あ、雨音さんって休日遊びに行ったりしてるの?」


 「うーん。そんなにいかないけど、友達とかに誘われたら予定とかない限り断らないかな」


 「ふーん」


 やばい、察されたか?

 なんか気を遣われてないか?

 でも、誘っても予定がない限りOKしてくれるってことだよな。


 「じゃ、じゃあさ、今度遊びに行かない?・・・みんなで」


 ああー、へたれだ。

 みんなでとかつけちゃった。


 「いいけど・・・誰誘うの?」


 「えっと、悠一と時音さんとか・・・」


 うう、雨音さん困ってるよ。

 あんましゃべったことない人と遊びに行くのとか普通やだよな。

 悠一とか時音さんとかにも迷惑かけるかもしれないな・・・。


 「いいね!4人で遊ぶの!」


 「え?」


 「じゃあ明日二人誘わないとね!時音は私が誘っておくから、時雨君は悠一君誘っておいてね!」


 「うん!」


 なんとかうまくいった。

 やった、雨音さんと遊べる。


 そして分かれ道の手前まで来たところで雨が止む。


 「あ」


 「ちょうどやんだね」


 「よかった、今傘返せて」


 太陽の光が差す。


 「遊ぶの楽しみだね」


 こちらを振り向き雨音はそう言う。

 地面がキラキラと光り、とても神秘的だった。

 太陽に照らされた彼女はまさに女神のようでとても美しかった。


 あぁ、雨上がりの君は世界で一番美しい。

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