第15話 席替え

 体育祭が終わりいつも通りの日常になった。

 そして、朝のホームルームが始まる。


 「じゃあ体育祭も終わったし、今日の帰り席替えでもするか」


 そんな先生の声がする。

 教室は様々な感情に包まれた。

 喜びの声を上げるものや、今の席がよく嫌な声をあげる者もいた。

 雨音との席が遠い時雨は、もちろん前者である。


 やった!席替えだ。

 絶対雨音さんの近くになってやる。


 ドキドキとワクワクがいりまじり、時雨は一日を過ごした。

 そして席替えの時が来る。


 「じゃあくじ引いてってくれ」


 緊張してきた。

 結局運なんだけど。 

 だけどもし近くになれたら絶対にもっと仲良くなれる気がする。


 雨音の番が来てくじを引く。

 喜んでも悲しんでもいない。


 あの表情、前でも後でもなかったということか。

 つまり、真ん中あたりか。

 

 そして時雨の順番が回ってきた。

 ゆっくりとくじを引く。


 頼む頼む頼む。

 

 番号を確認し黒板に記載されている席を確認する。

 恐る恐る見ると時雨の席は窓側の後ろの席の角だった。


 まじかよ、うわ絶対近くないじゃん。

 普通ならうれしい席なのに、こんな時に引くなんて。


 がっかりしている時雨のもとへ悠一が来る。


 「おい、席どこだったー?え、どうしたそんな悪かったのか」


 時雨の様子を見て悠一が困惑する。


 「あ、悠一か。どうした?」


 「いや、どうしたはこっちのセリフだ。そんなに悪い席だったのか」


 「あ、席は窓側の角」


 そういい、くじ引きの紙を見せる。


 「え、めっちゃいい席じゃん。何が不満なの」


 「いや、雨音さんの反応的に絶対後ろじゃないし」


 「なんだそれ気持ち悪いなお前。反応で席予測してんのか」


 「だって聞けないし」


 「まあまだ近くじゃないって決まってないだろ」


 悠一が少しあきれた様子で時雨の前に座る。


 「悠一はどこなの」


 「まあ真ん中あたり」


 「そっか」


 悠一とそんな会話をしていると、先生が話し出した。


 「全員引いたな。じゃあ移動してー」

 

 頼む、奇跡起これ。

 

 時雨は席を移動させてみんなの様子を見る。

 主に雨音さんの動きを見ていた。


 雨音さんが止まったら終わり。

 ここに3人以上来ても終わり。


 そんなことを思っている矢先に、雨音さんの動きが止まる。

 真ん中の列の真ん中あたりに机を合わせていた。

 時雨はそれを見てがくんとし、机に頭をぶつけ顔を伏せる。


 あー、せめて窓側にきてくれよ。

 高望みしすぎたかな、隣とか前だったら神だったんだけど。


 時雨は顔を上げ再び雨音のほうを見る。

 すると隣には悠一の姿があった。


 は!?あいつふざけんなあああ。

 交換すればよかった。

 はあ、もう嫌だ。  


 絶望する時雨。

 

 ん?でも待てよ。

 休み時間とかに悠一の席に行けばもしかしたら話せるかも?

 まったく話したことのないやつの隣に雨音さんがいるよりかはましか。

 てか俺の隣の人だれだろ。


 冷静になり自分の隣に目を向ける時雨。

 

 「よいしょ。やっと運べた」


 彼女は今ちょうどついたようだった。

 時雨と彼女は目を合わせる。


 「あ、よろしく!時雨君」


 「あ、えっと。よろしく」


 まずい、彼女の名前が出てこない。

 さすがに2か月経ってるのに名前覚えてないは失礼だよな。

 

 気まずそうに目をそらす時雨。

 幸運にもその時先生が話し始めた。


 「---じゃあ夏休みまではこの席で行くからな。以上」


 先生の話が終わりみんなが帰っていく。


 「じゃあ明日からもよろしくね。ばいばい」


 「うん」


 結局名前わかんなかった。

 まあ名簿見ればいいか。


 「時雨ー。俺寄ってくとこあるから先帰るわ」


 「うん、じゃあね」


 悠一も帰り時雨も帰ろうとする。

 窓の外を見ると雨が降っていた。

 教室の外にある傘を手に取って下駄箱へ向かう。

 昇降口を出ると一人の少女の姿を見た。

 雨音だ。

 

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