第14話 真相
体育祭が終わり、悠一が戻ってくるのを待っていると雨音さんが話しかけてきた。
直接向こうから話しかけてきたのは初めてだったので、少し戸惑った。
さらに1位をとれなかったことを引きづり、時雨は今、雨音さんとは会話をあまりしたくなかった。
「どうしたの?」
「えっと、リレー惜しかったね」
雨音さんからは慰めの声をかけられた。
だが今の時雨にはそれは逆効果だった。
時雨は不甲斐なさに押しつぶされそうになった。
「うん。そうだね」
申し訳なく、不甲斐なく、時雨は今にでもその場から消えたかった。
時雨は雨音さんと顔を合わせようともせず、ずっと下を向いていた。
「・・・。あのさ、本当はまだ足治ってないよね?」
「え?」
「戻ってくるとき足ひきづってたし、肩も貸してもらってたよね」
「・・・」
時雨は無言を貫き通す。
また心配はさせたくないけど、嘘もつきたくない。
けど、もう隠し通せなさそうだ。
「どうしてそんな無茶したの?」
「約束したから」
「え?」
「雨音さんと約束したから」
言ってて恥ずかしいな。
「それだけのために無茶したの?」
「うん。でも負けちゃった、約束守れなくてごめん!」
時雨は顔を上げにこやかにそう言う。
何かが吹っ切れた様子だった。
なんかもう自分でもわかんなくなった。
今、どんな感情なのか。
けど一つだけわかるのは、雨音さんが俺を心配してくれて、それがものすごく嬉しかった。
負けたのはダサいけど。
なんかもう開き直ったな。
「ごめんなさい」
「え?」
唐突に謝られ困惑する。
いつもまっすぐな目でこちらを見ている雨音さんが、今はうつむいていた。
「私と約束したせいで、無茶させて」
その言葉に息をのむ。
すごく申し訳なさそうな顔をしている雨音。
時雨はそんな彼女しっかりと見つめる。
「それは違うよ」
「え?」
「雨音さんのせいじゃないよ。俺が勝手にけがしただけだし」
「・・・」
「それに雨音さんと約束してなかったらここまで体育祭楽しめなかった」
「え?」
「1位獲るって目標があったからあそこまで頑張れたし、全力でみんなと体育祭を楽しめた。雨音さんがいなかったら、去年みたいにのらりくらりやっててここまで楽しめなかったよ」
「・・・そっか」
「うん。それにけがしてたからあそこまで走れたと思うんだ!粉骨砕身?火事場の馬鹿力?だよ」
「なにそれ」
二人で笑いながら会話をする。
二人の顔にはもう罪悪感やみじめさなどはみじんもなかった。
ただただこの会話を楽しんでいた。
「それと応援ありがとう。あれで限界突破できたよ」
「うん。時雨君も応援してくれてありがとね」
「そうだ、忘れてた。二人三脚1位おめでと」
「ありがとう」
二人でお礼を言い合う。
お互いに楽しいひと時を過ごしていた。
「そうだ。写真撮ろ!」
「!いいよ!」
まさかの申し出に時雨は喜びを隠しきれない。
やった。
雨音さんと写真撮れる。
ん?
時雨はあることを思い出す。
それは雨音に彼氏がいるか問題だ。
今なら自然な流れで聞けるんじゃないか。
「でもいいの?彼氏とかいるんじゃ・・・」
「え?いないよー」
雨音そう笑っていいながら写真を撮る。
その真実を知り、時雨は思わず口が緩む。
「時雨君すごい笑顔だね」
「ほんとだ・・・」
少し恥ずかしい写真を撮り終え、二人は別れようとする。
「じゃあ友達のとこ戻るね。帰ったら写真送るよ、じゃあね」
「うん、ありがとう。じゃあね」
よっしゃ。
雨音さん彼氏いないのか。
しかも写真も撮れた。
すごくうれしい。
けど、結局一緒に歩いてた男子って誰なんだ?
「ただいま」
「あ、悠一」
「雨音さんとは話ができたか?」
「見てたのか」
「まあ邪魔するよりはいいかなって」
いじりながら時雨と話す悠一。
時雨は悠一にさっきの疑問を聞いてみた。
「多分だけど、それお前だな」
「え?」
「だって雨音さん一人で帰る人だし、その時期で二人で帰ったのっておまえくらいじゃね?」
「確かに」
つまり俺は、自分に踊らされてたってことか。
なんとも哀れな。
雨音の真相を知り、時雨の体育祭は幕を閉じる。
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