第13話 勝負の時

 入場を終え、1番最初に走る人たちはレーンの上に行き、それ以外の人は並んで待っていた。


 最後から2番目だからまだ順番は先だけど、さすがに緊張する。

 それに、足の痛みもさっきより増してる気がする。

 ダンスをやった影響だな。

 

 そんなことを思っていると、いつの間にか順番が次になっていた。

 時雨のクラスで1位にいるのは1人。

 このリレーに出れるのはクラスから8人。

 全部で8クラスあるので2人以上1位を獲れば、ほかのクラスから大きくリードを獲れる。

 

 すごいな。

 まだ同じクラスから1位が2人以上出てない。

 けど紅組と白組で紅組のほうが1位を1人多くとってる。

 いい勝負してるな。

 だけど2位は白組のほうが多い、このままいったらこのリレーでの得点は負けるな。


 そして時雨の前の人たちの決着がつく。

 1位を獲ったのは白組だった。

 これにより時雨たち紅組は1位の人数で追いつかれてしまった。

  

 残りはこれと次だけだ、ここで俺が1位を獲れば、このリレーで勝てる可能性はかなり高くなる。 

 これに勝てば、俺が1位をとれば、すべてがうまくいく。

 絶対に1位獲るんだ。


 ◇


 パンッ。

 リレー開始の合図が鳴る。

 一斉にスタートを切る時雨達。

 最初は差がないように見えたがカーブを終えると白組の陸上部のやつが後続との差を広げ始めた。

 時雨は真ん中あたりの順位をキープしていた。


 くそ、やっぱ早い。

 ていうか陸上部のやつ以外にも負けてるし。


 「白組早いです!紅組頑張ってください」


 誰に言ってるんだ。

 鉢巻の色が同じだからわからんし。

 せめて何組かで応援してくれ。

 そっか実況の人はわかんないのか。

 じゃあせめて色増やそうよ、4人も同じ色だと鬱陶しい。

 

 そんなどうでもいいことを時雨は走ってるときに考える。

 自分の不甲斐なさ、自分の早さに絶望してなんとかそれを紛らわせたかったのだ。

 気づきたくなかったのだ。


 やばい、足痛い。

 すぐとまりたい。

 リレーなんてやるんじゃなかった。

 周りの目線が痛い。

 

 コースの半分まで走ったところで、時雨は後悔する。 

 後悔しているとき、クラスの前を通過する。


 「頑張れ時雨!」


 「時雨君頑張って!」


 悠一と雨音の応援が聞こえた。

 もちろんクラスのほかの人も応援してくれていた。

 だが、二人の声がより鮮明に聞こえたのだ。

 時雨は奮い立った。

 

 勝つんだ、絶対。

 足の痛みなんてどうでもいい。

 周りの視線なんてどうでもいい。

 今はただただ貪欲に、1位を獲りに行く。


 時雨は直線を加速する。

 そしてカーブに入るころには2位へと浮上していた。

 だが1位との差はまだある。

 時雨は追いつくならここしかないと思い必死にギアを上げる。

 カーブが終わり最後の一直線になるころには1位のすぐ後ろにまで来ていた。

 その時、時雨の頭の中には何もなかった。

 ただただゴールテープだけを見つめていた。

 

 勝つ。


 ゴールテープが落ちる。

 時雨はゴールしたことを実感し、スピードを緩める。

 

 「はあはあ」


 勝ったのか、負けたのかわからない。

 放送の声が聞こえない。

 やばい、息切れ過ぎてしぬ。

 歩いてないと。

 そうだ、旗の所に行かなきゃ。

 

 そうしてリレーを終えた人たちの並んでいるところに目を向ける。

  

 「え」


 最後尾には1位の旗の所に並ぶ白組の陸上部の姿があった。

 空いている場所は2位の所だけ。

 時雨は自分の順位が2位だと知った。

 

 「はは・・・」

 

 俺、負けたんだな。

 ださいな、あれだけ1位獲るって言ってたのに。


 時雨が絶望している最中、最後のリレーが終わる。

 1位は紅組だった。

 これで紅と白の1位の人数は同数。

 だが2位は白のほうがやはり多いので、このリレーの得点では負けていた。

 

 俺が1位を獲ってれば。

 

 「選手たちが退場します」


 その合図でみんなが一斉に退場する。

 だが。


 「痛」


 今になって足が。

 やばい痛すぎる、歩けるかな。


 「大丈夫か?足痛いのか?」


 いきなり声をかけてきたのは時雨と勝負をした陸上部の人だった。


 「肩貸すよ」


 「・・・ありがとう」


 時雨はすごく惨めな思いをした。

 なぜだかすごく悲しくなった。

 泣きそうになるのをこらえ、時雨は退場する。


 ◇


 「優勝は白組です!」


 大きな喜びの声が上がる。

 時雨達紅組は体育祭に負けてしまった。

 そして開会式が終わり、各々が片づけをしたり、友達と写真を撮ったりしていた。


 「俺トイレ行ってくるわ」


 「うん」


 悠一はトイレに行き一人になる。


 悠一は俺のリレーのこと慰めてくれたけど、それが逆につらい。

 結局雨音さんとも話せてないし、てかどんな顔で会えばわかんない。


 「時雨君」


 後ろから自分の名前を呼ぶ声がする。

 時雨はすぐさま振り向くと、そこには可憐な少女の姿があった。


 「雨音さん・・・」


 「ちょっといい?」

 

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