第11話 嘘つき
時雨と雨音は職員室に着き担任の先生の所へ向かう。
「来たか時雨、病院どうだった?」
「・・・。2日くらい安静だそうです」
「え?」
怪我のことを知らなかった雨音が驚く。
そうだった、雨音さんも先生に用があるんだった。
さっき体調不良って言ったんだっけ。
すぐばれる嘘をついてしまった。
「そうか。体育祭は出れるんだな、よかった」
「はい」
「でもあんま無茶するなよ」
「はい」
先生は時雨から視線をそらし隣にいる雨音に目を向ける。
「じゃあこれクラTね」
「はい」
先生が雨音にクラTの入ったダンボールを渡す。
思ったより重かったようで一瞬雨音はバランスをくずす。
「重いから気をつけろよ」
「はい」
時雨と雨音は廊下に出る。
重たそうな表情をしている雨音に対し時雨が声をかける。
「それ持つよ」
「え?」
「重いでしょ」
「いいよ、これくらい」
彼女の力になろうとしたが断られてしまった。
そして再び彼女は歩き出す。
時雨も少し遅れて歩き出す。
うーん、やっぱすごい重たそうだ。
しかもなんかちょっと冷たい。
嘘ついたこと怒ってるのかな。
ここは無理やりにでも荷物持って好感度upしよう。
「いいから持つよ」
半ば強引に彼女からダンボールをとる。
すると彼女は焦った表情になる。
「だめだよ!足痛いんでしょ!」
雨音は時雨の裾をつかむ。
いつもは落ち着いている雨音の声に焦りを感じた。
普段より大きな声に時雨は驚く。
雨音は本気で心配している表情でこちらを見つめている。
「これくらい大丈夫だよ。怪我も軽いし」
「でも・・・」
「心配してくれてありがとう」
雨音は時雨の裾から手を放す。
そして二人は教室へと向かう。
「そうだ、鍵って開いてるの?」
「さっき悠一君からもらった」
「そっか」
今日は悠一がやってくれたか。
まあ鍵係は俺とあいつだし当然か。
「雨音さんも練習行ってくれば?俺がクラT運んでるし」
「いいよ、私鍵持ってるし」
「鍵渡してくれればやっとくよ?雨音さんも早く練習したいでしょ」
「んー筋肉痛だから、時雨君の持ってるクラT、教室に届けてから行くよ」
「え?」
唐突なカミングアウト。
少し意味が分からなかった。
「そういえば、さっき嘘ついたでしょ」
「あ」
「なんで嘘ついたのー」
「心配されたくなかったっていうか、恥ずかしかったっていうか」
雨音がじろりとこちらを見る。
ほんとかなー、といいたげな顔をしていた。
「聞いたときびっくりしたんだよ」
「すみません・・・」
申し訳なさそうに言葉を発する。
時雨は雨音から目をそらす。
「もう、そういう嘘つかないでね。すごい心配しちゃうから」
「・・・うん」
雨音さんは本当にやさしいな。
また好きになっちゃうよ。
けどごめん、俺はまた嘘をついた。
君との約束を果たすために、走るから。
二人は教室に着いてクラTを置くと、グラウンドへと向かう。
雨音さんは練習に戻り、時雨は座って練習を見守る。
すると悠一がこちらに気づきかけ寄ってくる。
「時雨!大丈夫かお前」
「うーん大丈夫じゃないかも」
「え!?」
悠一には、本当のことを話すか。
時雨は悠一に真実を述べた。
「なるほど、2週間安静なのに体育祭にでるために、2日って嘘ついたのか」
「うん。あ、このことは誰にも言わないでくれ」
「わかってる。本当は止めたいけど、お前が決めたことだし何も言わないし誰にも言わない」
「ありがとう」
「だけど練習は?無茶しすぎると本番やばそうじゃない?」
「練習は流しながらやるよ」
ふーん、と悠一はこちらを見ながら言う。
「そんなことなら1週間くらいで治るっていえばよかったのに」
「それだとダンスができなくなる」
「あーそっか」
みんなの種目練習を見ながら時雨と悠一は会話を続ける。
「けど、そんな状態で1位とれるのか?」
「・・・」
「お前の相手、陸上部だぞ」
「それはさっき雨音さんから聞いた」
「え?雨音さんと会ったのか?」
「うん。さっき下駄箱で」
興味深そうに悠一は話を聞く。
「怪我のことは?」
「知ってるよ、先生と同じで2日って言ったけど」
「へぇー。でも、なんか進展してそうでよかったわ」
「まあ、な」
「それじゃ俺は練習戻るわ」
そう言って悠一は立ち上がる。
「うん、頑張って」
「お前もな」
走って練習に戻る悠一。
その背中を見て時雨は思う。
進展してる・・・か。
本当にしてるのかな。
雨音さんの性格的に、あれは誰にでもやってそうだけど。
そして10日後、体育祭当日になる。
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