第10話 エール
病院の帰り道。
時雨は母親に車に乗せてもらい学校に向かっていた。
どうしよう。
このままじゃ、体育祭。
もうなんでこんなときに怪我なんか。
本当に最悪だ。
「学校着いたよ」
母親からその言葉を聞き、外を見るといつの間にか学校の前まで来ていた。
「うん」
「ちゃんと先生に言うんだよ」
「うん」
車の扉を開け、外に出る。
母親の車が、出発し交差点を左に曲がる。
それを見て、時雨は足を引きずりながら学校へと向かう。
職員室行かないとな。
まあこればっかりは正直に言うしかないよな。
ん?
昇降口に向かっている最中、ちらりとグラウンドを見る。
そうか、もう午後だから体育祭練習始まってるのか。
じゃあ誰も教室にいないから荷物持ったまま職員室行かないといけないのか。
下駄箱に着いた時雨は、靴を脱ぎ、上履きに履き替える。
自分の足を見て、何とも言えない気持ちになった。
なんでだよ・・・。
再び後悔が襲う。
そんな時、隣から声が聞こえた。
「時雨君?」
「雨音さん・・・」
そこにいたのは雨音さんだった。
時雨は驚いた。
「学校来たんだ!」
「うん」
「でもどうしたの?体調悪かった?」
「まあそんなとこかな・・・」
「え!もう大丈夫なの?」
「まぁ大丈夫」
「そうなんだ!よかった」
「それで、雨音さんはどうしてここに?今練習中でしょ?」
「うん。クラTを職員室に取りに行くの」
「今?」
「うん。さっき届いたの。だから先にクラスに運んどいてって言われた!」
「へー、人使い荒いね」
「ふふ」
雨音さんが少し笑った。
時雨は何に笑ったのかわからなかった。
「時雨君も今から職員室?」
「そうだよ。来たこと伝えなきゃだし」
「じゃあ一緒に行こ!」
「・・・。うん」
一瞬頭が真っ白になり、猛烈に熱くなった。
落ち着け。
逆にここで別々に行ったらおかしいだろ。
だから誘われたんだ、気まずくならないように。
そう、勘違いしてはだめだ。
雨音さんと共に廊下を歩きだす。
足のけがを悟られないよう、多少無理をしていた。
職員室は2階、短いひと時だが、時雨はとても幸せな気持ちになっていた。
「今日の練習って何してるの?」
「うーんと、今日はダンスの練習と大縄跳びの練習だよ。今大縄跳びしてる」
「そうなんだ」
・・・。
会話が続かない。
あれ?会話ってどうやってしてたっけ。
なんで今日はこんなにも会話が続かないんだ。
時雨はとても気まずくなっていた。
少しの沈黙をはさみ雨音さんのほうから話題が振られてくる。
「そういえば、時雨君の出るリレーの順番と、相手が決まってたよ」
「ほんと?」
「うん。時雨君は確か7番目かな?最後から2番目だった」
「最後から2番目か、できればもっと真ん中あたりが良かったな」
「どうして?」
「え?真ん中のほうがなんかよくない?」
「そんな変わらないでしょー」
2人で笑いながら会話が続く。
さっきまでの気まずさが嘘のようになっていた。
時雨は気づいた。
そうか、雨音さんの返しがうまいのか。
俺と雨音さんのコミュ力の差がでてるんだ。
時雨はどうすることもできな原因に気づいて落ち込んだ。
「それで、時雨君と走る人が陸上部の人だった!」
「え・・・」
まじかよ。
ただでさえ足のけががあるのに。
てか楽しくて忘れてたけど、俺リレー出れないじゃん。
うわ、今からそれ言うと逃げたみたいに思われるんじゃ。
でも、仕方ない。
本当のことなんだから、雨音さんには先に言っとくか。
「そうなんだ・・・」
そして、時雨が足のことを言おうとすると、その前に雨音が言った。
「頑張ってね!すごい応援してるから!絶対1位獲ってね!」
そんな雨音のエールと、無理難題な言葉を聞いた。
「・・・。まかせて!絶対獲るから!」
時雨は雨音の笑顔と応援に流された。
いや、ここまで言われたらやらないわけにはいかない。
無理してでも、やり遂げよう。
でも、少しは安静にしないといけない。
先生には、2日程度で治ると伝えておこう。
時雨は完治する日数を誤魔化し、無理をして体育祭に出ることを決めた。
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