第9話 体育祭練習での悲劇

 5時間目のダンスの練習を終え、6時間目の種目練習へと移る。

 グラウンドに出て、各自立候補した種目の練習へと移る。

 といっても、リレーは練習という練習はほとんどなく、みんなはただひたすら走ったり、友達と競ったりしていた。

 だが時雨は、本気で1位になるために、早く走る方法をネットで調べ練習していた。


 なるほど、スタートダッシュやコーナーを走る練習をすればいいのか。

 あとは、走る姿勢、、、こんな感じか?

 あと、足腰も鍛えなきゃな。


 体育祭まであと10日。

 所詮は付け焼刃。

 だが時雨は少しでも1位になる可能性を上げるため、必死に練習した。

 ちらりと二人三脚を練習している人たちを見る。

 すると雨音さんが走っていた。

 走る姿も可憐で美しかった。 

 

 「なに雨音さん見てんだよー」


 「!?悠一、なんでここに。お前は障害物競走だろ」


 「休憩中。暇だから来た」


 「・・・。そうか」


 「お前は今何してたの?」


 「リレーの練習だよ。スタートダッシュとか、カーブを走る練習とかしてた」


 「へぇー。めっちゃ頑張ってんじゃん。本気で1位狙ってんね」


 「当たり前だよ。約束したし」


 「そんで休憩がてら雨音さんを眺めてたと」


 にこやかにいじってくる悠一。

 それに対し、少しいじけ顔になる。


 「うるさいなー。いいだろ別に」


 「あっはっは。認めんのかよ」


 「まぁもういいよ」


 「ふーん」


 「あ、そうだ。今日一緒に帰れないわ」


 「雨音さんと帰るの?」


 「違う。練習して帰る」


 「あぁー。お前すごいな」


 「こうでもしないと絶対1位獲れないし」


 「じゃあ俺も付き合うぜ」


 「え?」


 「競ったほうが練習にもなるし、アドバイスもできるぞ」


 「それはまぁ確かに」


 「よし、じゃあ放課後練習な」


 「でも結構きついかも」


 「平気だって」


 そういって悠一は自分の種目練習へと帰って行った。

 時雨も自分の練習に戻る。

 彼女の顔から眼を放し、リレーに集中する。


 ◇



 「はあはあ。しぬ・・・。坂道ダッシュきつすぎるだろ」


 「だからいったろ。ほら、さっさとした降りよう」


 「え?もう・・・。少し休憩しない?」


 放課後、時雨と悠一は帰り道にある山で坂道をダッシュしていた。

 弱音を上げている悠一に対し、時雨は余裕そうな顔をする。

 しかし、実はかなり答えていた。 

 時雨は人一倍強がりだった。

 平静を装い、時雨は悠一と言葉を交わす。 


 「休憩なら降りてるときできるじゃん。早くいこ」


 「おいまてよ」


 二人は登ってきた坂道を下っていく。

 息を切らしながら会話を続ける。


 「なんでそんな余裕そうなんだよ」


 「見え張ってるだけだよ。ほんとはかなりきつい」


 「なんだそれ、見え張ってるとか普通言わないだろ。変なとこで正直だな」


 「まあ聞かれたら大体答えてるだけだし。別に悠一にばれたところで」


 「そうなのか」


 そんな会話をしながら二人はスタート地点に戻ってくる。

 少し休憩をはさんで再びスタート地点に立つ二人。


 「そろそろ最後にするか」


 「でも、これじゃまだ1位獲れない気がする」


 「まだ本番まで10日あるだろ。焦んないほうがいいぞ。オーバーワーク厳禁!」


 「早く帰りたいだけじゃないの?」


 「それもある」


 「あるのかよ」


 「とりあえずこれラストね」


 「わかった」


 「よーい、どん!」


 二人が一気に走り出す。

 ほぼ同じ速度で坂を駆けあがる。


 足が重い。

 ゴールまで遠い。

 まじきつい。

 流石に疲れがたまったな。

 これが終わったらストレッチしないと。

 あ、ゴールまであと少しだ。


 その時、つまずいた。

 時雨は姿勢を崩し、転倒した。

 世界が回る。

 

 痛い。

 何が起きた。

 あーそうか、転んだのか。


 「おい時雨!大丈夫かよ!」


 「あ、うん。ちょっとつまづいちゃって、平気」


 「立てるか?」


 悠一が時雨に手を差し伸べる。


 「あぁ、ありがとう。痛」


 立とうとすると足から強烈な痛みが襲う。

 足から血が流れていた。

 

 「とりあえず洗おう」


 悠一に声をかけられ近くの水道へ歩く。


 「痛い・・・。」


 「大丈夫かよ。とりあえず病院行けよ」


 「うん」


 水道で足を洗い、悠一の肩を借りながら坂道を下る。


 「ごめん。迷惑かけて」


 「いいって。それより平気かよ」


 「今はまあ。とりあえず今日はもう遅いし明日病院行くわ」


 「そっか」


 そのまま悠一は、時雨に肩を貸しながら家まで送った。 

 

 ◇


 次の日。

 時雨は午前中学校を休んで病院に来ていた。


 「んー。2週間は安静にしてないとだめだね」


 「え?そうなんですか?」


 「うん。安静にしないと痛みがもっとひどくなるよ」


 「じゃあ体育祭出れないってことですか!」


 「そうだね。けど君の体が第一だから・・・。」


 医者からそのようなことを告げられる。

 時雨は理解しがたい現実に、打ちひしがれていた。

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