第8話 帰り道
数日後。
種目決めが一通り終わり、体育祭の練習が始まる前日。
時雨は悠一と帰っていた。
「お前本気か?」
「なにが?」
「体育祭のリレーだよ。びっくりしたわ」
「本気。雨音さんと約束したし」
「え!?いつ?」
「体育祭の種目が発表された朝、先に見せてもらってたんだ」
「朝二人きりで話したのか!?」
「うん。その時、約束した」
「へぇー、結構やるじゃん。じゃあ彼氏いるのも聞けたか?」
「まだ」
「え?その時聞けばよかったのに、軽い感じで」
時雨は歩いている足を止めて、悠一に言う。
「それなんだけど、軽くじゃなく、しっかり聞こうと思う」
「へぇー。それまたどうして」
「なんとなく・・・かな。一位獲ったら聞こうと思ってて、それだったら軽くよりしっかりのほうがよくね?って思った」
悠一の目を見てしっかり話す。
すると悠一は笑顔になって。
「いいじゃん。がんばれよ」
「うん」
快く応援してくれた。
そして再び歩き出す。
「けど、それだったら確実に意識はされるぞ」
「わかってる」
「彼氏いたら気まずくなるかも」
「それもわかってる。けど、その他大勢でいるのは嫌なんだ。雨音さんにはしっかり俺を意識してほしい」
「成長したなあ」
「親かよ」
「じゃあ頑張んなきゃな、雨音さんにいいとこみせるチャンスだし」
「うん」
住宅街を歩きながらそんな会話をする。
「そんじゃあな!」
「うん。じゃあね」
悠一と別れ一人になる。
何も考えず、ただひたすら歩いていると一人の少女とご老人の姿が見えた。
一人の少女、そう、雨音さんだ。
「ありがとうね。ここまで荷物持ってくれて」
「いえ、全然。気を付けて帰ってくださいね」
という会話が聞こえた。
そして雨音さんはその場を去る老人に後ろから手を振り見送っていた。
時雨はそれを後ろから見る。
すると彼女がこちらに気づいたようで。
「あ、時雨君」
「ども」
◇
夕方になり夕日がさす。
時雨は雨音さんと歩いていた。
「優しいね」
「え?」
「わざわざ荷物持ってあげるなんて」
「困ってたから・・・それにしても偶然だね」
「まぁ、家の方向同じだしね。むしろなんで今まで会わなかったのってくらいじゃない?」
雨音さんとはだいぶ話せるようになってきた。
明らかに最初の時みたいな緊張はなくなっていた。
それにしてもなんで今まで雨音さんのこと見かけなかったんだろ。
「え?私、結構時雨君のこと見たことあるよ?」
「え?ほんと?」
「うん。一年の頃から」
「そうなの!?知らなかった・・・」
なるほど。
会っていなかったのではない。
俺が見ていなかっただけだったようだ。
まぁ歩くときは下を見てるし、そりゃ気づかないよな。
隣に歩いている彼女の横顔を見る。
そういえば、言ってなかったな。
「雨音さん。あのさ」
「ん?」
「俺リレー出るって言ったじゃん」
「うん」
「1位獲ったら聞きたいことある」
「聞きたいこと?今じゃダメなの?」
「まぁ今でもいいんだけど、1位になったらでいいかな。頑張る理由にもなるし」
「わかった。そのかわり絶対1位になってね?気になるから」
「うん。わかってる」
ん?
今思ったけど、俺が一緒に帰ってる時点で、雨音さんに彼氏とかいないのでは?
そうだよ、冷静に考えたら彼氏以外の男と帰んないだろ。
つまり今フリーってことか?
やばい、なんだかめっちゃやる気出てきた。
絶対1位獲ろう。
「そういえば雨音さんって二人三脚何走目なの?」
「・・・。アンカー・・・。じゃんけん負けて」
「へぇー。雨音さんも頑張って1位になってよ」
「もちろん頑張るけど、あまり自信ない」
「なんで?」
「だって、転んだら痛いじゃん。だから速く走れないかも」
「転ぶかもって思ってたらほんとに転んじゃうよ?」
「そうだけどさー。怖いもんは怖いし」
少しほっぺを膨らませ、ジト目でこちらを見てきた。
「まぁ本番になったらそういうの気にしないと思うし、頑張ってよ」
「うん、そうだね。頑張って1位獲るよ」
「うん。お互い頑張ろ」
雨音さんとそんな会話をして帰り道を帰る。
「じゃ、私こっちだから、じゃあね」
「うん。じゃあね」
そして雨音さんと別れ、再び一人になり、家に帰る。
明日、ついに体育祭練習が始まる。
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