第6話 TOP50

 「見に行こうぜ」


 「うん」


 悠一に誘われてついに貼り出された順位を見に行く。

 2年生の生徒数は約400人。

 つまり上位12%に入らなくてはならない。

 掲示板にはかなりの人がたむろしていた。


 昨日までは自信あったのに、今こうして見に行くとなると途端に怖くなってきた。

 けど、ここで順位に入れなきゃ、雨音さんと付き合うことなんてできない。

 

 掲示板の前に着き、上のほうから視線を向けていく。


 3位 --雨音


 雨音さんの名前が見えた。

 3位、やっぱりすごいな雨音さん。


 「あ、時雨、雨音さんの名前あるぞ。3位か、やっぱすごいな雨音さん」


 「同じこと言わないくていいよ」


 「え?」


 雨音さんの名前があったことは嬉しい。

 だけど、俺の名前がないと困る。

 

 時雨はゆっくりと下のほうに目をやる。

 自分の名前を見逃さぬよう、ゆっくりと。


 47位 --時雨


 あった。


 「あった」


 「え!まじでどこ?」


 「47位」


 「ほんとだ!すげぇ!やったな時雨」


 「うん」


 「なんだよ。もっと喜べよ。リアクション薄いな」


 「いや、喜んでるよ。これは、あれだ。言葉を失うというか、息をのむというか、嬉しすぎて声が出ないんだ」


 体の震えが止まらない。

 まだ実感が湧かない。

 今まで、こんなにも努力が報われた瞬間がなかった。


 「そうか・・・」


 悠一は優しい笑みでこちらを見ていた。

 本当にこいつがいてくれてよかった。

 心からそう思う。

 やった、やったんだ。


 「けど、ここがゴールじゃないだろ?」


 「!」


 「今のお前ならきっといける!自信もってけ!」


 「・・・うん!」


 そうだ。

 ここがゴールじゃない。

 テストはあくまで通過点。

 ここからが正念場なんだ。


 ◇


 昼休みになり、落ち着いてきた。

 そしてようやく次の段階に進もうと気合を入れる時雨。


 「んで、どうすんだ?」


 「なにが?」


 「雨音さんって彼氏いるかもしれないんだろ」


 「あーすっかり忘れてた。というより記憶から消してた」


 「それ聞かなくていいの?」


 「うーーーん。聞いたほうがいいのかな」


 聞いたらほぼ好きって言ってるみたいだな。

 それにもしいるって言われたら立ち直れない。

 悠一が何と言おうと、まあ聞かないかな、とりあえず意見だけ聞いとこ。


 「聞いたほうがいいと思うよ」


 「えーなんで?だって聞いたら・・・」


 「好きって言ってるようなもんだって?」


 「!」


 「まあお前ならそう言うよな。まあ噂が勘違いだったら好きってばれずに近づけて、お前的には気楽かもね。いたとしても、直接聞くよりショック受けないし、気まづくならずに今のままの関係保てるよな」


 「それなら・・・」


 「けど聞いたらお前はその他大勢じゃなくなって振り向いてもらえる可能性が上がる。まあいたら終わりだけど」


 「うーん。やっぱリターンよりリスク見ちゃうな」


 「けど聞かなきゃお前はずっとその他大勢のままだぞ」


 「うっ」


 「そこでお前に策をやろう」


 「策?」


 指を突き立て、時雨のほうを見つめる。


 策ってなんだ!?

 まさか、とんでもないかもしれない。

 期待期待。


 「雨音さんに彼氏がいるかを確認でき、いたとしても関係が気まずくならない」


 「なんだその神策!早く教えてくれ。悠一が聞いてくれるのか!?」


 「違う。軽い感じで聞くんだ」


 「え?」


 「なんか適当なノリでお前が、雨音さんってすごい優しいよね、彼氏とか常にいそう。みたいなことを言えばいいんだ」


 「・・・。思ったより普通だった。期待して損した」


 「いや、これ普通によくない?」


 「んーまあ確かに。けど言うタイミングが」


 「そこはメールでも直接でもがんばれよ。TOP50とったんだから」


 「まあ確かに」


 思いのほか普通だったけど結構いいかも。

 軽く聞くっていうの完全に頭から抜けてたな。

 よし、聞くか。


 ◇


 「うーん」


 夜になり、時雨は考え事をしていた。

 それはいつ彼氏について聞くかだ。

 

 いきなり聞いたらまずいよな。

 どうしても流れが必要だな。

 メールで聞くのもちょっときついか?

 やっぱ直接聞くしかないか?


 そんなことを考えると一件のメールが届いた。


 「ん?」


 え!

 雨音さんからメール!?

 嘘だろ。

 なんて来てるかな。


 時雨は嬉しさのあまり、すぐにメールをチェックしたのであった。


 ◇


 翌朝、朝早く登校した時雨は急いで教室に向かう。

 教室に入ると一人の少女の姿があった。


 「おはよう雨音さん」


 「あ、おはよう時雨君。これ昨日言ってた紙」


 時雨は雨音さんの席のほうに歩み寄りその紙に目を通す。


 「へえ、これが体育祭の種目か」


 時雨にとって、勝負の体育祭が始まる。

 


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