第4話 不穏な噂

雨音さんと一緒に帰ったあの日から1週間。

時が経つのは早いもので4月ももう終わりかけていた。

 

 やっぱ時間を空けることは大切だ。

 結構いい感じだったし、焦る必要ないよな。

 しつこくいって嫌われたらやだし。


 時雨は行動できない自分を正当化していた。

 人見知りに加え陰キャな時雨は口だけの男だった。

 ヘタレな彼は1週間、彼女とやりとりができていない。


 3限が終わり、4限の移動教室の準備をする。

 時雨は鍵係なので教室を出るのは1番最後になる。

 この学校は盗難防止のため、教室の扉には鍵がついていて、それを管理するのが鍵係だ。

 朝は1番早く来た人が職員室から鍵を取り、扉を開けるルールだ。

 帰りは先生が閉めてくれる。


 教室から人がいなくなるのを待っていると、話し声が聞こえてくる。

 

 「そういえば、雨音さん彼氏いるって噂だぞ」


 「は?まじで?狙ってたのに」


 「なんでもこの前、男と歩いてたらしいぞ」


 「えーでも、それだけだと彼氏かわかんなくね?」


 「考えてみろよ。今まで男っ気が全くなかった雨音さんだぞ?彼氏じゃなくても、雨音さんはそれなりに気はあるだろ」


 「くそー。でも俺、この前教科書貸してもらったぞ!まだワンチャンあるよな!」


 「・・・。いなかったとしても、お前には高嶺の花だよ」


 「うるせぇ!」

 

 え?は?まじで・・・。

 嘘だろ。

 雨音さんに彼氏。

 

 頭が真っ白になった。

 何も考えられなくなった。

 胸が締め付けられる。


 チャイムが鳴った。

 早くいかなくては。

 

 時雨は教室を後にする。

 そのあとの授業は全く集中できなかった。


 昼休みになりご飯を食べているときもそのことが離れなかった。


 「なあおい。どうした?さっきから死んだ魚の目して」


 「・・・。」


 「なんかあったのか?」


 「あーちょっとーな」


 「なんだその返事。どうしたんだ」


 「雨音さんって彼氏いるらしい」


 「え?」


 「まあいて当然だよなー」


 「あ、あぁ。そうだな」


 「なんか男と歩いてるとこ見たらしいぞー」


 「え?」


 「ははー。いいよなーそいつ」


 時雨は心ここにあらずだった。


 「まあ・・・。もしかしてそれがショックで?」


 「ははー。ショックなんてそんな」


 「あー。まあ薄々気づいてたけど・・・」


 「・・・。あぁーもうやだー!」


 「うわ!びっくりした」


 「はぁー好きな人出来たらその人に彼氏いるって何。酷くね?なんでこんなんばっかなんだよ。こんなことなら好きにならなきゃよかった」


 時雨はたまっていた鬱憤を解放した。

 机に顔を伏せ、言葉を続ける。


 「やっぱ俺って駄目なんかな。そんな魅力ないんかな。てかタイミング悪いよな、なんなんだよ」


 自暴自棄になっていた。


 「おい、ヒスになんなよ。めんどいって」


 悠一は、なかなか切れ味の鋭い言葉で返答する。

 それが時雨の心に刺さる。


 「おい、もうちょっと労わってくれよ。こっちは失恋したんだよ?」


 「失恋ってほどでもないでしょ。第一まだ彼氏かどうかもわからないんだろ?諦めるのは早すぎるよ」


 「それはそうだけど。雨音さんって男っ気なかったんだろ。そんな子が男と一緒に歩いてるなんて、雨音さんも気があるってことなんじゃないの?」


 「噂を鵜呑みにしすぎだろ。雨音さんが気があるなんてわかんないでしょ。男が猛アタックしてるだけかもよ?」


 「まあ確かに」


 「だからあんま早とちりすんなよ。狙ってけねらってけ」


 「でもほんとに彼氏だったらなぁ」


 「もういっそのこと本人に聞いちゃえよ」


 「そんなの無理に決まってるだろ」


 何を言い出すんだこいつは。


 「なんで?」


 「そんなの好きって言ってるようなもんだろ」


 「いいじゃん別に。意識してもらうことは大切だよ」


 「けど・・・」


 「まあお前の自由だけど。焦ったほうがいいよ。雨音さん人気だし」


 「・・・」


 「逃げてるだけじゃ勝てないよ。時には攻めも肝心。思い立ったらすぐ行動。これ恋愛必勝法」


 「必勝法って・・・」


 「うじうじしてるだけじゃ相手に何も伝わらないし、一生モブキャラだぞ」


 悔しいけど一理ある。

 とりあえず行動しないとなにも始まらない。

 このままじゃ、絶対片思いのままだ。


 「とりあえずメールでもなんでも、雨音さんとなにかしらの関係は保たなくちゃな」


 「まあ確かに。」

 

 「試しに今日の夜送ってみろよ」


 「送る内容がないよ」


 「なんでもいいだろ」


 「うーん」


 「じゃあ、もうすぐ中間だし勉強教えてとかは?確か雨音さん一年生の時、毎回上位だったぞ」


 「迷惑じゃない?」


 「人間は教えたがりだから平気だよ。逆に頼ってくれて嬉しいまであるだろ」


 「うーん、わかった。送ってみるよ」


 「おう。頑張れよ」


 嫌われないかな。

 大丈夫かな。


 不安で押しつぶされそうになるが、友が背中を押してくれたのだ。

 答えないわけにはいかない。

 よし、やってやる!


 立ち止まることをやめた時雨。

 身を投げ出す勢いで彼女と関わることを決めた。

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