青天の霹靂と変わらない日常②
「まだ何の病気かはわからないけど、盲腸でないことは確かだよ」
「盲腸じゃなかったら何なんですか? 大丈夫なんですよね?」
沈痛な面持ちをした先生に食ってかかるようにしていたのは母でした。私より随分取り乱していたし、病名も聞いていないのに不安でしょうがないと言う顔をしていたのを覚えています。
母は元々リアクションの大きい人ですが、あんなに狼狽えていたのを見るのは久しぶりでした。
「可能性があるものは四つあります」
その時言われたのは以下の四つでした。
・腸結核
・潰瘍性大腸炎
・癌
・クローン病
聞き慣れたものと慣れてないものがあり、当事者である私は病名を聞かされてもぽかんとしておりました。その隣で母はこの世の終わりだとばかりに顔を覆っていました。
きっと大変なんだろうなと思うのと同時に私は自分の病気が何なのかこの時理解していました。
クローン病です。
なぜだと言われると私の兄もクローン病だからです。
「にいちゃんがクローンなんだからうちもきっとクローンだわ」漠然とそう思っていたし当時の私は何ならその四つの中ならクローンが良いとすら思っていました。
同じ人がいるなら怖くない、そんな心理状況だったのだろうと今なら思います。
けれど結果がわかるのは数日後(詳細な日程は忘れました)。
ああえらいことになったと私は頭を抱えたのです。どんな結果であってもとりあえずは劇団員に連絡しなくてはなりません。
まだ病名もはっきりしていない中私は座長に電話を掛け、友人にも伝え、当面の間は治療に専念しようと言う話になりました。
そして検査の結果私はクローン病だと診断されました。
けれどその時私はまだ戻れるつもりでいました。
兄を見ていてもそんなに重篤な病ではないと思っていたからです。事実私の盲腸を切除した腹の傷は癒えていましたし、日常生活に支障はありませんでした。
何だこんなもんかとすら思っていました。
けれど特定疾患と国に言わしめる病気がそんな生易しいもののはずがありませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます