神と番犬のご登場

「随分と賑やかじゃのう?」


 擬人化された猫が、ワンちゃんとニャーちゃんに仰々しく話しかけた。形容しがたい威光に思わず震える2匹。


「どうして震えておる?」


「ニャー……何者ですかにゃ?」


「不敬じゃのう。我はバステト。遥々エジプトからやってきた猫の神様じゃ」


「かみしゃま?えじぷと?」


 聞きなれない単語に仲良く首を傾げる2匹。詳しい事は理解できなかったが、2匹は同じ気持ちになっていた。


(とりあえず、喧嘩はやめよう)


 ワンちゃんはともかく、同胞であるはずのニャーちゃんですら身震いが止まらなかった。バステトは周囲に明かりを振りまき、神々しさを表出していた。


 そのような空間に取り残された気がしたのだろうか。バステトの隣で3つ首の犬がグルルと吠え散らす。


「おい、俺たちを忘れるな!」


「そうだ。おい。そこのワンころ!」


「お前のために俺たちが来てやったぜ。感謝しな!」


 3つの顔が各々勝手に喋りだし、今度は畏怖の念ではなく、恐怖に駆られる2匹。おそるおそるワンちゃんが尋ねた。


「あのう……。どちら様ですワン?」


「なんだい、俺たちを知らんのか」


「いいか、よく覚えとけ。俺たちはギリシアの――」


「冥府からやって来た、番犬ケルベロスだぜ!」


 番犬が話すたび、2匹の顔につばがばしゃばしゃ飛んだ。ギリシア、冥府、番犬などという単語は2匹には分からなかったが、


(3つの顔が喋るから、3倍うるさい)


という気持ちは偶然にも一致していた。それでも、何も言わず黙りこくっていた。指摘したら喰われそうだと感じたからだ。


「うるさい、ケルベロス。黙って冥府に戻りなされ」


「あんだと、猫神の姉ちゃん」


「俺たちに口答えすんのかあ」


「喰っちまうぞお!」


「ああ、同時に話すでないわ、鬱陶しい!」


 眉を吊り上げ、バステトはケルベロスに怒りの矛先を向けた。応じる様子を見せる番犬。慌てふためく2匹。


「ちょっと、ちょっと待つニャ」


「あなたたちは何をしに来たんですかワン?」


 歩調を合わせるように質問をした2匹。すると、番犬と猫神が自慢げな態度でこう告げた。


「おうおう、お前さんたちと――」


「おんなじだぜえ」


「そうさ、お前たちの自慢話を小耳に挟んで――」


「ここに来てやったのじゃ。ありがたく思うがよい!」


 会話の最後をバステトに取られてしまい、又もや怒り心頭に発するケルベロス。そして、そんな彼らを目にして2匹は思った。


(そのためにわざわざ――)


(来たのかニャン?)


 神と番犬は2匹がしたようにモニター風味の映像を流しあった。こうしてしばらくの間、神と番犬の壮大な自慢合戦が展開されることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る