愛され自慢

 まずはオスのワンちゃんが発言した。


「僕はご主人様からボール遊びをしてもらったワン!」


 そう言うと、どういった原理かは不明だが2匹の眼前にワンちゃんの見た映像が映し出された。この空間では不思議なことがまかり通るようだ。


 映像ではワンちゃんが娘と一緒にボール遊びをしている光景が再現されていた。双方ニッコリとした表情を見せる場面になると、メスのニャーちゃんは悔しがるような顔をした。


「どうだワン。僕の方が君よりも愛されているワン!」


 そう言われると、ニャーちゃんも黙っていられなかった。フーっと威嚇する態度をワンちゃんに示しながら、


「そんなことないニャ!」


と吠えて、ワンちゃん同様に自己の記憶を映像にした。そこに映るのは、娘とニャーちゃんが猫じゃらしでたわむれる様子。今度はワンちゃんがグヌヌと悔しがった。


「私の方がご主人様に愛されてるニャン!」


「いや、そんことはないワン!」


「ニャにおう!」


「やるのかワン!」


 夢の中で激しい格闘が行われた。それに合わせて日常生活で溜まっていた相手への不満が、人間の言葉で交わされる。


「君はご主人様を独占しようとするワン!」


「それが気に入らないのかニャン?」


「当たり前だワン!」


「なら、あんたも同じニャ!ニャ!」


 売り言葉に買い言葉。お互いに相手の皮膚を引っ掻き―だが、夢の世界では痛覚が働かないようで、双方が無数の傷を負うこととなった――、自分こそが主人の最愛の友だと主張して譲らなかった。


 しばらくの間、2匹は争った。だが、それも長くは続かなかった。引っ掻くのも舌戦をするのも飽きてしまったからだ。


 それでも互いの思いは変わらなかった。そんな2匹の様子を見て、彼らの前に不可思議な存在がとばりを開くように現れた。


「お主らは」


「何を競っておるのじゃ?」


 予想だにしない生物の登場。それを目にして、仰天の顔を浮かべたワンちゃんとニャーちゃん。


 首が3つの犬と、擬人化された猫。現実世界では目にすることのない同胞に驚かない訳がなかった。

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