第2話 迷宮踏破VRMMO『ディメリア迷宮を踏破せよ』の主人公グラフィックを選ぼう

『ディメリア迷宮を踏破せよ』本部に着いた私は受付でチェックインして客室に案内してもらう。

宿泊係のスタッフさんが私の旅行鞄を持ってくれた。親切。嬉しい。

旅行鞄にはお財布と一泊分の洋服、メイク道具等しか入ってないからそんなに重くない。鞄自体、薄くて軽いし。


「お客様は当ホテルのご利用は初めてでいらっしゃいますか?」


前を歩くスタッフさんが私を振り返りながら尋ねる。スタッフさんは20代くらいに見えるけど、高校生の私にも敬語を使ってくれて嬉しい。

私、お客さんっていう感じがする。宿泊代金を払ってくれたのはお母さんだけど。


「はい。初めてです」


「そうですか。ご利用ありがとうございます」


スタッフさんは歩きながら客室の設備とか、無料で食べてもいい物とかの説明をしてくれた。

部屋に入ったら一秒でも早くVRMMO『ディメリア迷宮を踏破せよ』をプレイしたいお客さんが多いから、歩きながら説明するようになったんだって。気持ちはわかる。


客室に案内されてゲーム機器の使い方を説明され、用事がある時は専用のタブレットで呼び出すか、呼び出しのベルを鳴らすようにと言って、スタッフさんは私に一礼し、部屋を出て行った。

客室はシンプルなワンルームという感じ。ベッドと冷蔵庫と、テーブル。テーブルの上には電気ポットとカップラーメン、カップ焼きそばにゼリー飲料等、手軽に食事ができる物が並んでいる。バナナもみかんもある。

手で手軽に剥ける果物が置かれているのがガチな感じ。

あと、一階のお土産屋さんで売っているというお菓子もいろいろ置いてあった。おいしそう。


冷蔵庫を開けると500ミリリットルの水が入ったペットボトルが2本入っていた。入っていたのはそれだけ。

冷凍庫を開けてみたけど空っぽ。アイス食べたかったなー。

とりあえず水、飲もう。

私は冷蔵庫から500ミリリットルの水が入ったペットボトルを1本取り出して蓋を開けた。コップとかあるけど、使うの面倒くさいからそのまま飲んじゃう。


水を飲んだ私はペットボトルの蓋をしめて冷蔵庫に戻す。それから浴衣に着替えた。

浴衣は女性用のMサイズ。藍色の布地に赤い金魚が可愛く描かれている。写真撮ろう。撮った写真は確認。いい感じ。

SNSにアップするのはやめておく。


「帯、適当に結んだけどいいか」


私は浴衣を着終えて呟く。部屋の外に出る時には洋服に着替えるか、浴衣の着付けをスタッフさんに頼めばいい。

浴衣の着付けは無料で、草履のレンタルは有料だと聞いた。


ゲーム機器を起動させてヘッドギアをつけ、ベッドに横たわる。さあ、ゲームの始まりだ。

質問されたら答えを思い浮かべればいいんだって。便利だけど原理はわからない。


『使用言語を選択してください』


聞いたことのある女性の声優さんの声が問いかけて来た。

使用言語は、日本語で。私、英語とか得意じゃないし。中国語も韓国語も難しい。

中国や韓国のドラマを字幕で見ることはたまにあるけど。


『使用言語は日本語。了解しました』


私の意志が通じた。よかった。


『主人公のキャラクリエイトはしますか? キャラクリエイトをする場合は有料となります』


無課金で遊びたいから、主人公のキャラクリエイトはしない。


『キャラクリエイトをしない場合は公式汎用グラフィックが採用されます』


音声ガイドがそう言った直後、視界が白くなる。

私自身が天井も壁も床も、白い部屋にいる感じ。私自身はふわふわしていて幽霊みたいな状態のような気がする。

白い床には影も映らない。光が差している感じも電気がついているわけでもないのに視界が明るい。

私の目の前に、二人の人物グラフィックが並んで映される。

VRMMO『ディメリア迷宮を踏破せよ』公式サイトに掲載されていた汎用主人公の人物グラフィックだ。


『男女、どちらのグラフィックをマイキャラ設定にしますか?』


それはもちろん、女主人公で。

黒髪、黒い目で地味な容姿だけどそれなりに可愛い。

髪の長さは背中くらいで、髪質はサラサラのストレート。目が大きくて二重、睫毛は上を向いている。

鼻は小さく、唇はピンク色をしている。目を引くほどではないけど、よく見ると可愛くて地味にモテる感じ。


着ている洋服は男女主人公共通の『白布の半袖シャツ』と『白布のハーフパンツ』だ。

これはいわゆるアンダーウェアというやつで、耐久無限の初期装備だ。それはVRMMO『ディメリア迷宮を踏破せよ』の公式サイトに書いてあった。


VRMMO『ディメリア迷宮を踏破せよ』の『装備品』には初期装備の『白布の半袖シャツ』と『白布のハーフパンツ』の二つ以外には耐久値が設定されている。

『右手から右肩の下』は『右腕耐久値』で『左手から左肩の下』は『左腕耐久値』だ。

『右腕耐久値』が0になると身体装備の『右腕部分』が破損する。

その他に『右肩』『左肩』『胸部』『腹部』『背中』『右足太股』『左足太股』『右膝』『左膝』がある。

右膝下から足首、足の甲や足の裏を含めて『右足』で左膝下から足首、足の甲や足の裏を含めて『左足』となる。


『白布の半袖シャツ』は半袖部分が『右腕』『左腕』『右肩』『左肩』で胴体部分が『胸部』『腹部』『背中』の耐久値(耐久無限)が設定されている。

『白布の半袖シャツ』は耐久無限設定の代わりに防御力が0だ。敵の攻撃を軽減したり無効にしたりはできない。


主人公の装備品が全損すると装備品は消滅する。装備品が消失すると、自動的に『白布の半袖シャツ』か『白布のハーフパンツ』を装備することになる。

だから『白布の半袖シャツ』と『白布のハーフパンツ』は販売不可な装備品だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る