第8話 最初の修行(第2章)

 ガルーダの一件から日を跨ぎ、俺はリーベに連れられて平原へと再びやって来た。

 時刻は早朝。やけに太陽の日差しが眩しくてたまらない。


「それでは師匠、今日からよろしくお願いします」


 言うとリーベは俺に頭を下げる。


「ああ。けどリーベ、別にいつも通り接して貰って構わねえぞ?」


「けど師匠は師匠だし、先生にはちゃんと礼節しっかるするべき、でしょ?」


 なんてできた子なんだ、彼女は。

 リーベは照れくさそうに笑っている。


 悔しいが、めちゃめちゃ可愛い!


(いやいかん。今の俺は師匠なんだ。魔法に関してはまだ何も分かってないけど――)


 しかし、身体は覚えている。


 カラスやガルーダに放った魔法の感覚、血が血管を駆け巡るようにこみ上げてくる熱くほとばしる魔力の流れを。

 そして、魔法陣の中で形成された、魔力の塊を。


「それじゃあまずは、リーベが今どれくらいの実力があるのか知りたい」


「そうだなぁ……って言っても、殆どできないんだけどねぇ……」


「嘘吐け、昨日だって炎魔法使ってたじゃあないか」


「アレはまぐれよ。いつも全然だし」


「そうか? まあいい、じゃあ最初は炎魔法から練習しよう」


 自分でも何故かは分からないが、最初の魔法といえば炎魔法だと思っている。

 だから、最初に炎魔法を覚えさせることにした。


 何より、ガルーダとの闘いの中で彼女は炎魔法を発現していた。

 BB弾程度の大きさではあったが、使えないワケではないことは分かった。


 後はその不完全な魔法をブラッシュアップ、腕を磨いていくのみ。

 

「さあ、やってみてくれ」


「うん! はぁぁぁぁ……」


 早速、リーベは杖の先に意識を集中させ、魔力を溜め込む。

 やがて杖の先が白く光ると、それを器用に振り、空中に魔法陣を描く。


 原理はおそらく、オタ芸など、ペンライトを使った残像のようなものだろう。


 昨日見た時にも思ったが、その動きにはブレや無駄な動きは一切なかった。

 初心者目で見ても、魔法陣を描く才能は高いらしい。


「炎天にうたえ、聖なる光の如く。炎の舞台にて、奇跡に芽生えん」


 呪文を詠唱すると、空中に描かれた魔法陣が赤く光り輝く。

 その中央で、空間が揺らめいている。


 蜃気楼――大気中で光が屈折する現象だ。


「燃え上がりなさい、《フレア》ッ!」


 叫んだ次の瞬間、魔法陣の中央に火球が生成される。

 それは勢いよく飛んでいくが、


 ――ポスッ。


「……ん?」


「あ、あら?」


 不発だった。

 火球は魔法陣から離れると同時に火力を失い、黒い煙となって消えた。


「リーベ、こいつはどういうことだ?」


「まま、待って! これはその、何かの間違いよ!」


「だ、だよな。ようし、もう一度フレアだッ!」


 昨日のように、できるはず。

 そう思い、再びリーベに指示を出す。


 リーベは再び杖を振りかざし、無駄のない動きで魔法陣を描く。

 そして再び、魔法陣は赤く輝き、火球が生成される。


「今度こそ……」


「炎天にうたえ、聖なる光の如く。炎の舞台にて、奇跡に芽生えん」


 次はしっかりと、魔法陣の上で火球が浮遊している。

 後はこれを思い切り放つだけだ。


「行け、リーベ!」


「次こそ、燃え上がりなさいっ! 《フレア》ッ!」


 まだまだ小さな火球だったが、それは弾丸の如き勢いで飛んでいく。


「やった! 出た、出たよナゴ助――」


 しかし次の瞬間、放たれた火球はまるでスーパーボールのように跳ね返り、不思議な挙動で俺の方へと飛んできた。


「へぁっ!?」


 驚く暇もなく、火球は俺の身体を乗り越え、尻尾の先に飛び込んだ。

 刹那、尻尾の先に命中した炎は爆弾の導火線のように燃え上がる。


「ぎゃああああああああああああああああッ! 熱っ! あっづぃ! 尻尾、あづぃぃぃぃぃぃぃッ!」


「わああああああああああ! またやっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

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