第三週~第四週① ジェンダーSFは現代ドラマたりえるか。


 熱狂度として★5が最高です。(完結作を優先して読んでいます。)




「宇宙船内の不快なニオイ」作者:根竹洋也 ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668567192701 )


・宇宙船が臭い……というSF小説らしからぬ始まりを見せる本作。クッサ星人といったコミカルなキャラ付けとともに科学的な臭いの謎のお話に転がり込むところは面白く、SFでした。さくっと笑いたいならコレ。



「Go Green」作者:藤原くう ★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668405867219 )


・月面ゴルフというダイナミックな設定が光ります。軽い読み口なのにしっかりとしたSFの要素が見て取れておすすめします。



「フウセンコウモリという珍しい生き物を見つけた話」作者:葦沢かもめ ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16816927862157886471 )


・SFには空想の生物を楽しむ遊びがあります。一般的なSF書籍でなくともゲロルフ・シュタイナーが書いた架空の生き物「鼻行類びこうるい」といった本がこうした分野では有名です。思弁進化と呼ばれる一領域で、思弁生物学と呼ばれることもあるそうです。ほかにも最近ですと高木刑「西中之島の昆虫たち」が架空の昆虫を取り扱ったSFです。ウィキペディアによると現代の思弁進化の活動はドゥーガル・ディクソン「アフターマン」から始まるという一般同意があるそうです。人類滅亡後の地球を支配する生物ですね。それだけ架空の生き物を考えても深い世界が広がっています。

 その面白さを生物学的な切り口や、食物としてはどうか? あるいは文化的な視点で見てはどうか? など多様な視線で見つめる本作は短いながらもSFの面白さが詰まっている好例です。



「ツーリスト・アドベンチャー」作者:@misaki21 ★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330668414219214 )


・「パラダイス~桃源郷~」というオープニング曲から始まる本作は大人の遊び心を満載したどこかなつかしいSFです。ワープを繰り返し旅行するという物語はありがちですが、軽快で、小気味よい語り口ですいすいと読めてしまうところが不思議な趣があって良いと思いました。



「マナー講師、接近遭遇」作者:葉月 氷菓 ★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330668411599788 )


・SFの定型に私たちの仕事などをSFとして書き直すというものがありますよね? 本作はそれです。マナー講師というネタをどのように料理したかを見ました。パターンとして異星人のマナー講師はよく見ます。そのうえでどれくらい楽しめたかというと、私としては、後半がよく書けていて面白いなと思いました。異星人の設定をしっかりと描いていました。結末が物足りなかったのがこの評価の理由です。



「わたしが孵るとき」作者:新菜いに ★★★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330648809992095 )


・昨今の社会の急速な変化に伴い、ジェンダーもSFのなかで描かれるようになりました。ふつうに電車に乗っているとスラックスを履いた女子高生も見かけるようになりました。男女のジェンダーバイアスをなめらかに減らしていこうとする流れが現代にありますよね。本作に出てくる子どもは無性体として生まれてきます。こういう設定は萩尾望都「11人いる!」のキャラクターにもいます。雌雄未分化の存在です。子どもの間はこうした無性体で生きていて大人になるときに性別が与えられるというような。

 もし、性別を選ぶ権利を思春期の少年少女が持ったら? という設定を用いて性とは何なのかという問いも描き出していると思いました。そこには家族からの期待や、友人からの視線など複雑な事情が絡まり合っています。この物語はいずれ現代ドラマとなるのでしょうか?



「回転寿司選手権」作者:サクライアキラ ★★( https://kakuyomu.jp/works/16817330668496525511 )


・肩の力を抜いて読める、スポーツものでした。

 渡米から帰国後、家族が楽しげに話す回転寿司、それはどうやら彼の知る回転寿司とは違っていて……という始まり。

 いや~~バカですね。褒めてます。これは好きです。スポーツと回転寿司を掛け合わせたという部分が素晴らしいアイデアだと思いました。これはSFというか変な小説、ストレンジ・フィクションな気がしますが、ちょっと疲れた日に笑いたい方におすすめです。



「オゴペグ」作者:foxhanger ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16816452220292294558 )


・アマゾンの奥地に住む少数民族が使う言葉、それには人類をも巻き込む不思議な力があった――という内容です。話の構造自体を取り出してみると、伊藤計劃「虐殺器官」の正反対の言語SFとも言えそうです。ひとつの言語が世界を変えていく様は見ていて面白く、ただ結末が少し難があると言えばあるかなというくらいですが、おすすめの作品です。



「ヒュプノスの夢」作者:悠井すみれ ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330668501130353 )


・人類滅亡後に残った人工知能のお話です。ピクサーの「ウォーリー」みたいなお話と言えばお分かりいただけるかと思います。

 SFにおいてその内容を語るには、シニフィエ(意味や内容)に対してシニフィアン(音声や文字)がどういう強さを持つかは特に重要なことだと思っています。意味するところに対して、表象が弱いと感じれば、それはしっくりと来ないものだと思います。つまりこのバランス感覚が的確である必要があると思うのですね。そうした意味でSFを語るに適切な文章というものはこういう文章だとしっくりくるのが今作でした。



「シュレディンガーの猫屋VS転売ヤー」作者:葦沢かもめ ★★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817139556068380048 )


・これは何なのでしょう? というのが初めに浮かんだ言葉でした。最早SFの世界ではお馴染みとなった思考実験、シュレディンガーの猫ですが、それを売っている猫屋のアルバイトと、そこに難癖をつける転売ヤーのお話……もう、何を言っているかはわかりませんね。シュレディンガーの猫というのは、ランダムな確率で毒ガスの出る装置とともに猫を箱の中へ入れたとき、次に箱を開けるときまで猫が死んだ可能性と生きている可能性は重なり合っているという量子力学の思考実験です。量子力学の奇妙な性質を表したものとして良く知られています。

 今作はとにかくコントのような内容で面白く読みました。ジャージの男の「That's it!」の口癖といった細かい部分の作り込みが良く出来ています。また世界に猫が増えてめでたし、めでたしという終わりもブラックで良かったですね。

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