第225話 118『スケルトン・ネロ』

「ネロ、ちょっとこっちに来てくれる?」


 お茶の後、アンナリーナはネロを誘って書斎にやってきた。


「そのへんに座って待ってて」


 ゴソゴソとクローゼットを探って、ひとつの木箱を持ってきた。

 それを、ソファーセットのローテーブルに置くと蓋を開けた。


「これは……ネロを見つけた洞窟で、あなたが身につけていたものと、多分あなたの荷物だと思う。

 これを見て、何か思い出さない?」


 ネロは箱からひとつひとつを取り出し、見入っていたが何も思い出せないようだ。

 すべてを見終わって、彼の得物だったろう長剣を見ても、なんの感慨もない。

 かぶりを振って剣をテーブルに置くと、骸骨の空虚な目がアンナリーナを見つめていた。


「そう……

 あのね、これからのことを決めたくてね。ネロは剣士と魔法職、どちらになりたい?」


 骸骨なので表情はないのだが、いささか戸惑っているように見える。


「持ち物から見て……剣士ではなかったように思えるの。

 どうやら剣は護身用のようだし、防具もないしね。

 ……私はネロに、リッチになってもらいたいと思うの」


 リッチとは、魔法職のスケルトンの上位種だ。

 アンナリーナは、将来的に人型の魔獣を護衛として連れ歩きたいと思っていた。

 剣士としてはイジがいる。

 セトはどちらかと言えば魔法職なのだが、今のところ人型になれない。

 ぜひネロに魔法職となってもらって、共に世界征服を……

 冗談である。冗談なのだが、できてしまいそうで怖い。


「リッチ?」


「うん、でも返事は焦らないから。

 まずは少しずつステータスを上げていくね」


「ワカリマシタ」



 ネロが書斎を出て行って、アンナリーナは木箱を元に戻した。

 今、ネロに返しても良いが、混乱するだろうからもう少し預かることにしたのだ。

 しかし……

 予測していなかったわけではないが、生前の事をまったく覚えていないとは思わなかった。

 人間としての生を終えてから時間が経ち過ぎて、記憶がなくなってしまったのか、もしくはこのまま魔力値を上げていけば思い出すのか。

 何もかも手探りなのだ。



 アラーニェに手伝ってもらって入浴し、第二の我が家とも言えるテントに戻ると、テオドールも入浴し、まだ髪が濡れたまま居間でワインを飲んでいた。


「熊さん、お待たせ」


「おう、もうあっちはいいのか?」


「うん。新しい従魔がね、話せるようになったんだ。

 ちょっと今までの子たちと毛色が違うんだけど、ゆっくり育てていくつもり」


 テオドールは今回、アンナリーナの従魔たちには本当に世話になったと思っている。

 もしも、彼がアンナリーナと知り合っておらず、クランのメンバーでこの依頼を受けていたら……指名依頼なので確実に受けていただろう。

 そして全滅していた事は否めない。

 アンナリーナほどの結界を張れる魔法職は他にいないし、暖をとるすべもない。

 あの洞窟に閉じ込められた段階で終わりだった。

 セトやイジが野営の時の見張りについてくれたことも大きかった。


「新しい従魔か。

 どんな奴なんだろうな、会えるのを楽しみにしているよ」


「うふふ、絶対びっくりするよ」




 翌日は、完全な休日を与えられ、早朝から市に向かったアンナリーナたちと入れ違いに、ダージェは招かざる客を迎えていた。

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