第133話 26『量産型中級体力ポーションC』

 約束通りギルドを訪れたアンナリーナは、目を見張った。


 おそらくギルド職員は徹夜だったのだろう。

 もうすでに、昨日発表したばかりの情報をイラスト付きで印刷した紙が用意され、カウンターに積まれている。

 そして一斉に向けられた視線にたじろいだ。


「えーっと、おはようございます?」


 今朝は寝坊したので、もうすぐ昼だ。


「おはようございます。もう大丈夫なのですか?」


 ドミニクスが集まっている冒険者をかき分け、やってくる。


「まだ少し辛いけど……約束したから」


 この一言に胸をキュンとさせた冒険者たちが一斉にアンナリーナに近づいてきた。

 そのうちの一人は昨日の最後に担当した彼だ。


「薬師の嬢ちゃん、来てくれてありがとう。本当にもう、休んでくれ」


 見るからに顔色の良くないアンナリーナに椅子が用意され、ドミニクスが紅茶を渡してくる。


「あとは私たちでもやっていけます。

 ゆっくり休んで下さい、ね?」


「私、ドミニクスさんに相談したいことがあったんですけど……」


 アンナリーナが珍しく、困った顔をしている。

 これは只事ではないと、ドミニクスは鑑定室にアンナリーナを誘った。

 アンナリーナは入室して、ドアを閉めて結界を張り、座りもせずに話し始める。


「私が最近【疾風の凶刃】の方々と交流しているの、ご存知でしょう?」


「ええ、大熊のテオドールたちですね」


「彼らにいくつか……融通することにしたんですけど、あのどのくらいの値をつけたらいいか、わからなくて」


 アイテムバッグから取り出した瓶を机に置く。

 それを見てドミニクスは腰を抜かさんばかりに驚いた。


 もう、これ以上驚くことはないだろう。この領都では滅多にお目にかかれないその品……中級体力ポーションC、回復値2700。

 あり得ない数値だ。

 だが、それよりも。


「あなたは……練金薬師だったのですね」


「今まで黙っていてごめんなさい。

 成り行きであの人たちに売ることになって……クランに招待されてるの」


 ドミニクスの身体がビシリと固まる。


「あー、そのクラン?ってのに所属するつもりはないですから。

 ただ、色々考慮してもらうことはあると思いますが」


 ドミニクスが難しい顔をしてアンナリーナを見ている。


「これは量産型で、数量をたくさん作れるように改良しました。

【疾風の凶刃】に卸したあと、こちらにも置いてもらえるよう、お願いしたいと思っています」


 アンナリーナは居住まいを正して、ドミニクスを見つめ返した。


「これほどの回復値は、正直言って私も初めて見ました。

 いいですか、リーナさん。

 これは確実に騒動になりますよ?」


「鬱陶しくなったらトンズラしちゃいますから」


 ペロリと舌を出して、悪戯っ子っぽく笑むアンナリーナ。


 だがその言葉に震撼したドミニクスは、アンナリーナにかかるトラブルを全力で回避しようと決心する。


「それでですね、一体どのくらいのお値段で譲ればいいですか?」


 回復値2700と言えば、それを使用するのは高位冒険者だろう。

 この領都でもそれほど人数がいるわけではない。


「最低、金貨10枚。

 これ以下だと他のバランスが崩れますのでくれぐれも」


「わかりました。ありがとう、ドミニクスさん」


 これで【疾風の凶刃】の本拠地、クランハウスに行くことが出来そうだ。

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