それぞれの進み道
魔王を倒すまではサラのことでユースティとの会話がほとんどなくなっていた。頭の良さは彼の方が上だ、何を言ってもいざこざがないように丸め込まれてしまう。
以前だったらそのことにイライラしていたが、不思議と今はそんな気持ちは無い。サラを吹っ切れたこと、新しいことにチャレンジできる喜びでユースティへの複雑な思いが吹き飛んでいた。こうして普通に仲間として話をするのはいつぶりだろうかと考えてしまう。
「この活動は必ず国を良くする。上が腐っているからこそ、上と下両方から変えていかなきゃいけない。上を変えるのはお前だ、俺は下から変える」
「一度決めたら曲げないのは相変わらずか、残念だ」
そんな他愛のない会話をしている中、なんだかいつものユースティじゃないなと思う。笑ってはいるが、どこが空々しい。
「なあ、何かあったのか? なんか変だぞお前」
「いや? 特に何も。変かな?」
「うまく言えないけど。何か上の空っていうか、魂がどっかに飛んでってるみたいだぞ」
「魂、か。ふふ、相変わらず変なところで鋭いな」
何のことを言われてるんだろうと首をかしげる。すると彼はにっこりと笑った。
「今の俺は、魂がないようなもんだ」
道作り頑張れよ。そう言い残すとユースティはエントランスに向かった。彼は魔法騎士団につくことが決まっている。誰もが憧れる国王が認めた者のみが入れる騎士団だが、あまり嬉しそうには見えなかった。
その翌日サラと第一王子の婚約が発表された。エルベは急いで二人に会おうとしたができなかった。城内は魔王討伐に加えて王族の婚約でてんてこまいだったのだ。ユースティは国外から魔王討伐の祝賀会に招かれ出発した後だった。ようやくサラと話ができたのは十日後だ。
「どういうことなんだ」
戸惑ってそう聞けば、サラは大きなため息をついた。
「私はもともと遠縁の王族なの。王子であるカイラスとは、子供の頃一緒に過ごしていた。ずっと好きだったの。でも内部抗争があって私は離れた。私の存在を認めてもらって、もう一度彼と会うには功績を残すしかないでしょ」
では、最初からサラは人々の為ではなく自分の為に。そう思ったが、サラの冷めたような目を見て彼女が何を言いたいかわかった。自分も同じだ。己を認めてもらう為、貧しい地域にも学校や繁栄をもたらすために頑張って来た。
「ユースティとは」
「何か言われたことはないし、何もない。だから彼は関係ない」
知っていたはずだ、ユースティの気持ちを。それを都合よく利用したのか。彼はサラを助けるためにどれだけ無茶な戦いをしてきたか。
「文句を言う前に私から言わせて。あの人裏では気持ち悪さが普通じゃなかった」
「はあ?」
「宿に泊まればずっと私の部屋にいて一緒に寝たがる。自分が口をつけた食べ物を半分こ、とか言って差し出してくる。頼んでもいないのにやたら装飾品を買ってくる。お手洗いにもついてこようとするのよ? 心配だからって」
「え……」
「知らなかったでしょ? 助けてほしいとき、あなたはいつもいなかったものね。相談したくても彼がピッタリくっついてたから言う機会もなかった」
軽く睨まれて何も言えない。二人きりになるよう仕向けていたのはユースティだった。何をするにしても引き離された。自分も行く、と言えば手分けをした方が速いとやんわりと、だが確実に遠ざけられていた。
「野宿の時は気が気じゃなくて眠れなかった。自分の身は自分で守って来た。好きな人と再会して、婚約して何が悪いの」
最後の言葉はエルベを非難するかのような冷たい声だった。お前のことなど信用していないと言われているのだ。
言いたいことはわかるが、サラがユースティを都合よく利用してきたのも事実だ。こんな女を好きだったのかと一気に気持ちが萎える。
「そうだね。お幸せに」
それが二人の最後の会話だった。そのわずか半月後のエルベが城を発った日にサラが妊娠していることが発表され、国中が再びわいた。すぐに婚姻の儀の日取りが決まる。国に帰ってすぐに子作りしたのかよ、と揶揄する者もいた。本当にそのとおりだ、忙しかったあの時に何やってんだとエルベも苦笑した。
結局ユースティとは会えなかった。彼はどんな気持ちでこの一報を聞いたのだろうと思ったが、もしかしたら知っていたのではないかとも思う。最後にあった時明らかに違う様子だったのはこのせいなのではないかと。村に向かいながらぼんやりとそんなことを考えた。
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