幸せなのだーれだ?

aqri

訪れた平和な世界

 わあああ、と人々の大歓声に包まれながら魔王を倒した勇者たちは凱旋帰国した。百年以上にわたる人間と魔族の戦いに終止符が打たれたのだ。

 一体何人の屈強な戦士たちが殺されてきただろう。それをたった三人で倒してしまったのだ。この三人は有名だった。魔法学院で成績が圧倒的すぎて他者を寄せ付けないトップスリーに君臨した。

 剣術はもちろん魔法も錬金術もこなしてしまう天才、ユースティをリーダーに白魔法の腕前はもはや神の領域だと賞賛されたサラ。そして天才的な頭脳を持ち魔法の実力はユースティにも負けないエルベ。この三人なら必ず魔王を倒すと人々は期待し、見事その願いが叶った。

 厳しい戦いと長い旅の中で三人の絆は深まり、ユースティが中心となり二人に指示を出して戦う。背中を預けて戦うのはいつもユースティとサラだ。エルベは後方から二人のサポートをしながら相手の陣形を崩すような奇才で襲撃する。

 

 豪華な馬車に乗り人々に笑顔で手を振る三人。これから王との謁見がある。

 人々の声にかき消されているが、三人は今後のことを話し合っていた。ユースティはおそらく騎士団へ高い地位で入団するだろう。そのことを楽しみにしているようだった。笑顔で手を振るその姿は英雄そのものだ。サラも終始笑顔だが、エルベだけは真顔だ。それが気になり声をかける。


「今後が心配? エルベも隊長クラスの何らかの部隊への所属じゃない? それか参謀とか」

「それはあんまり興味ないな。この国に必要なのは経済の活性化だ」


 魔族との戦いで国は疲弊している。貧しい地域は飢え死にする者も少なくない。皆が浮かれている中、エルベだけは先を見据えて真剣な顔つきだった。


「サラは何がしたい?」


 エルベの問いに、サラは困ったように微笑む。チラリとユースティを見れば彼はサラと目が合って穏やかに微笑んだ。


――ああ、こいつと結婚するのか。


 急に冷めたような気持ちがこみ上げる。はっきりと二人から聞いていないが、この二人が思い合っているのは明らかだった。エルベは補佐が得意だと世間の認識になったのは、ユースティの策略とも言えた。そうやってさりげなく自分を離すことでこの二人はいつも一緒にいた。


 それは自分がサラに思いを抱いたあたりから顕著だ。頭の良いユースティにはばれていたのだろう、最終決戦でも遠く離れたところからの遠距離攻撃を頼むと言われた。とどめを自分で刺したかったのは見え見えだ。

 表向きには信頼しあった仲間だが、裏では確実にヒビが入っていた。何か会話をすれば腹の探り合いだ。

 サラに振り向いてもらえないのはわかっていた、告白したところで断られるのは目に見えている。だから早く二人離れたかった。幸せそうな二人の姿なんて見たくもない。


――どうせすぐに結婚して、国を盛り上げる象徴になるんだろうな。好きにしてくれ。


 なんとなく冷めてしまったので、エルベも笑顔で民衆に手を振った。


 その後は王宮で国王から褒め讃えられ、数日後に晩餐会が開かれることになった。国の行事にいくつか参加して忙しい日々を過ごしていたが、エルベはもっと忙しくなった。貧しい地域に大きな道や橋の建設が許されたのだ。それを進言したのはエルベだ。目的は他の国との交流、魔王討伐した国として少しだけ優位に立てるはずだと王族や元老院を説得した。

 もちろん国を豊かにするための進言ではあったが、本当の目的は貧しい地域の活性化だ。商人が通れば必ずお金が回る。自分の村だけでなく周囲も活性化すれば、飢え死にする人や親のない子供は減るはずだ。何よりこの事業計画は子供もお年寄りも参加できて仕事が与えられる。

 やらなければいけないことが多いのでバタバタと忙しい日々を過ごすエルベは二人と完全に距離が開いており、気付けば三か月も経っていた。

 そんなある日ユースティが会いにきた。村に帰る準備をしていることを聞いて残るつもりはないのかと説得しに来たようだった。


「お前がいればこの国は変わる。腐った王族と権力のことしか考えてない元老院。頭のいい奴が必要なんだ」

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