第4話 交渉開始、のちに質問タイム
「落ち着けってルジア。後でゆっくり説明してやるからよ。……あ、それとこいつ、お前たちで始末したって事にしといてくれよ。頼むな」
なおもぎゃあぎゃあと叫ぶルジアを宥めてそう言うと、当然ではあるがルジアをはじめ周りの皆が怪訝な反応をする。困惑した表情でマキラが声をかけてくる。
「そ、それは何故ですか?未だに信じられませんが先生が魔族を一人で倒したのは事実なのに、どうして……」
なおも言葉を続けようとするマキラを手で制し、逆に自分が話させてもらう。もうすぐ学園の他の連中もここに駆けつけて来るだろう。今は時間勝負なのだ。
「いいから頼むよ。その代わり、お前たちにはちゃんと詳しく話すからよ。それに、そうすりゃこいつを仕留めた手柄はお前たちの物になる訳だし。お前たちは特進クラスとして評価も上がる、俺は面倒ごとから逃げられる。な?どちらにとっても悪い話じゃねぇだろう?」
「で、ですがやはりそれは……」
そう言うがまだマキラは納得いかないようで食い下がる。そこにナギサが割って入ってくる。
「まーまー。いいじゃんマキラっち。せっかく手柄を譲ってくれるっていうんだしさ。ここはリカっちの話に素直に乗っかろうよ」
他の面子は未だ先程の出来事が上手く飲み込めていないようで後ろで呆然としている。上手くこの三人をまとめればひとまず乗り切れるだろう。
「おっ、話が分かるじゃねぇか。そうそう、お互いに上手くやろうぜ。な?」
そう自分が言うと、ナギサがこちらを向いてにこっと笑いながら言う。
「……たーだーし、リカっちはこの後ちゃんとうちらの質問に答える事。何で魔法が使えるかとか、何でここに来る事になったのかを、ね。それが、うちらが話を合わせる条件って事で。オーケー?」
……なるほど。ただのおちゃらけキャラではないようだ。利を得つつこちらの情報も引き出すという交渉をしっかり成立させようとしている。
「……意外としたたかだな。いいぜ。ひとまずこの場を乗り切るのが俺の最優先事項って事は間違いないからな。ただし、一つ追加だ。後ろの連中含めてひとまず俺が話す内容はクラス内のみにとどめて他の誰にも極力他言無用とする。これが俺の条件だ。それを確約してくれるのなら構わねぇ。それで良いか?」
そう自分が言うと、ナギサがまた微笑んで言う。
「ん、オッケーオッケー。リカっちの条件で良いよ。皆もさ、とりあえずそれで良いよね?ひとまずリカっちの事は聞いておかないと気になるし、それを聞けた上でうちらにはプラスになる訳だしさ。ひとまず今は皆それで納得してくれないかな?」
ナギサの言葉に、後ろから一歩前に出てセリエが口を開く。
「……私は、評価や手柄には興味がありません。ですが、リッカ先生のお話には興味があります。それと、先程放った魔法に関しても。なので、その提案に乗る事に異論はないです」
セリエがそう言うと、まだ不満げなルジアが言う。
「……もし、私たちがそれを断るって言ったら?」
ルジアの言葉に、少し考えてから答える。
「んー。……ま、残念だがその時はここからオサラバだな。面倒ごとに巻き込まれるのはもう沢山だからな。勿論、そうなりゃ当然お前たちにも何も話さず、とっととここから消えるけどな」
そう言うとルジアがぐっ、と悔しそうな表情を浮かべる。納得はいかないが自分について気になるのは確か。だがこちらの思い通りになる事が悔しいといったところだろう。
「まぁまぁ。ルジっちも少し落ち着いて?どう転んでも私らのプラスになるんだからさ。それにこのままリカっちがいなくなっちゃったら消化不良だし、うちらも色々面倒くさいじゃん?」
未だ複雑な表情のルジアとマキラの肩をぽんぽんと叩き、ナギサがまた満面の笑みで親指をびっ、と立てながら言う。
「ま、そういう事でこの場は上手く口裏合わせとこ?二人だってリカっちに聞きたい事、知りたい事が沢山あるっしょ?ここはうちらも誤魔化しに協力しとくって事で!」
複雑な表情ながらも二人が納得したとほぼ同時に、メディ先生を始め他の職員がこちらに駆け付けて来た。
「皆さんっ!大丈夫ですかっ!?」
メディ先生や他の教員、特進クラスではないが上級クラスの選抜の面々がこちらに駆け寄って来る。
「来たな。……じゃ、上手く合わせてくれよ」
自分の言葉にナギサが頷き、皆にアイコンタクトをしたのを確認して自分が口火を開く。
「大丈夫です!私を含め特進クラス、全員無事です!私が駆け付けるとほぼ同時に、特進クラスの皆が無事魔族を仕留めましたっ!」
そう自分が言うと、メディ先生は元より、後ろの連中が安堵の表情を浮かべる。だが、メディ先生や一部の面子を除き、他は自分が最前線に立つ事なく事態が解決した事に対してだろうというのが一目で分かった。
(……こいつら、明らかに自分に火の粉が降りかからなくてほっとした感じだな。もちろん全員がこんなんじゃ無いだろうが、一部の講師には問題ありだな。こりゃ、こいつらが講師連中を下に見るのもある意味仕方ないな)
そう内心で思いつつもメディ先生へ簡単に自分とナギサを中心に報告を済ませる。
「そうですか……ご苦労様でした。今回の件に関しては、上の者に評価査定を必ずお伝え致しますので。皆さん、本当にお疲れ様でした。後処理と手続きは私たちが進めますので、ひとまず教室へお戻りください。後でもう少し詳細をお聞きする事になると思いますがよろしくお願いいたします」
そう言われ、ひとまず皆で教室へと戻る事にした。
「……さてと。じゃあ質問に答えようか」
あれから学園に戻り、皆で上手く口裏を合わせて仕留めた魔族についての聞き取りや手続きを済ませて正式な報告を終える。教室に戻って皆が落ち着いたところで教壇から皆に声を掛ける。
「よし。……まずは皆に礼を言っておくよ。上手く話を合わせてくれてありがとうな。じゃ、色々聞きたい事があるんだろ?まぁ、答えられる範囲でって形になるけど答えてやるよ」
無言で探り合いの様な雰囲気だったが、自分のその言葉にルジアが立ち上がって自分を睨みつけるような感じで言う。
「私からいくわ。……多分、皆が一番気になっている事だしね。聞かせて貰うわよ。何で、男のあんたが魔法を使えるのか」
そう言ってルジアが真っ直ぐ自分を見る。相変わらず綺麗な金色の瞳をしているなと思った。
「知らん。物心ついた時、気付いたら使えてた。以上」
我ながらシンプルだと思うその返答が余程気に入らなかったのか、机をバンっと叩きながらルジアが叫ぶ。
「ふ……ふざけんじゃないわよっ!そんな答えで納得すると思ってんの!?そもそも、男で魔法を使えるなんて、今まで見た事も聞いた事もないわよ!」
声を荒げるルジアを宥めるように、少し声のトーンを落として言う。内心、さっき見たし聞いたじゃないかと思うものの、それを口に出したら更にルジアを怒らせるだろうと思い自重した。
「まぁまぁ。落ち着けよルジア。そもそも俺だってよく分からないんだよ。魔法に興味を持って書物をあさって勉強していたが、ある日突然男の自分が使えた時は俺だってびっくりしたからな」
何故皆がここまで自分が魔法を使える事に驚きとそれに対して驚愕しているのには、無理からぬ理由があった。本来なら絶対に有り得ない事だからだ。
そう、自分たちが生きるこの世界では、本来魔法が使えるのは女性のみなのだ。
理由は今も分からないが、古来より歴史に残る魔術師は皆女性であった。遥か昔から歴史を遡っても、自分以外の男が魔法を使えるという話は聞いた事がない。事実、歴史に名を連ねる魔術師の自伝や冒険譚は全て女性であった。
単純に自分は読み物としてそれらの書物をはじめ、魔法の原理や知識の本を面白いと思い様々な書物を読み耽っていたのだが、ある日冗談半分で覚えた魔法陣や詠唱を用いて魔法を唱えてみた。自分でも信じられなかったが、何と魔法が発動したのである。
「……いや、あの時は俺も焦ったぜ。まさか本当に自分の手から炎が飛び出すなんて夢にも思ってなかったからな」
そう言って教室を見渡すものの、皆まだ怪訝な表情をしている。無理もないだろう。実際自分が魔法を放つ光景を目の当たりにしても、本来あり得ない事なのだから。勇者に至っては出会った際に確認と称して何回魔法を唱えさせられたことか。
「ま、そんな感じだよ。悪いが、何で俺が魔法を使えるのかは正直俺自身も分からねぇんだよ。納得いかないかもだけど受け入れてくれとしか言えねぇな」
そう言うとルジアが不満そうに椅子に座る。続けてナギサが座ったまま笑いながら言う。
「ねぇねぇ、実はリカっちが女の子ってオチはないのー?」
「……勘弁してくれ。こんな女がいたらそれこそ捕獲対象だろうが。ま、現実として俺は男なのに魔法が使える。その理由は俺にも分からない。ルジアの質問に関してはこれ以上答えようがねぇな。次は何を答えりゃいい?」
そう言うとマキラがおずおずと手を上げて言う。
「あ……あの先生。これは個人的な質問なのですが……」
そう言って手を上げたままこちらを見るマキラ。亜麻色の綺麗な髪がふわりと揺れる。
「ん?何だ?別に構わねぇぜ。何でも聞いてくれよ」
そう自分が言うと、マキラがこちらの顔を見ながら言う。
「……リッカ先生は、小さい頃はどちらに住まわれていましたか?」
そう言われ、マキラの顔を見ながら答える。
「ん?小さい頃か?十歳くらいまでは北の大陸の外れの村に住んでいたが……」
そこまで言ったところで突然立ち上がったマキラの目が潤み、今にも泣きそうな表情で叫ぶ。
「……やっぱり!私です!貴方の『後輩』……マキラです!リッカ先生……いえ、『先輩』!」
マキラの言葉に、小さい頃の記憶が蘇る。
「マキラ……おいマジか?本当にあのマキラか?」
自分の言葉にマキラは席から飛び出し、自分に詰め寄りながら言う。
「はい!まさかまたこうして逢えるなんて……!嬉しいです先輩!」
今にも自分に抱きつきそうな勢いのマキラに皆戸惑っている中、一番先に冷静になったナギサがこっちに声をかけてくる。
「ちょい待った。リカっちはマキラっちと昔からの知り合いって事?てか、先輩って何?」
ナギサの質問に、恥ずかしさを堪えながら言う。
「あー……マキラの言う通り、俺は十歳くらいまで小さな地方の村に住んでいたんだよ。んで、近所にこいつがいたんだよ。少し歳の離れた幼馴染って感じかな」
ふんふん、と頷くナギサを見ながら更に言葉を続ける。
「んで、田舎なもんで近くに歳の近い連中ってのが少なくてな。そんな中マキラが俺のところに来て、自分の事を『お兄ちゃん』って呼ぶようになったんだよ。……で、お兄ちゃん呼ばわりっていうのがどうにも自分には恥ずかしくてな。そこでつい、『俺はお兄ちゃんじゃない!先に生まれているんだから、俺はお前の先輩だ!って言ったんだよ。……で、俺が親の事情で村を出るまでこいつは俺を先輩呼びしていたって訳さ」
自分の黒歴史を掘り起こされた様な感じで気恥ずかしい気持ちになっている中、マキラは未だこちらを潤んだ目で見つめているし、ナギサはこちらの言葉に何故かハイテンションになっている。
「マジー!?ヤバいじゃんマキラっち!運命の相手とまさかの再会って奴?これ、マジでエモくね?数年の時を経てまさかの再会!ヤバくねこれ?」
そう言って一人大騒ぎするナギサ。それを見て慌ててマキラが叫ぶ。
「そ、そういう訳ではありませんナギサさん!……で、でもまた逢えて、本当嬉しいのは本当です、先輩……」
女子特有のきゃあきゃあした雰囲気が始まってしまい、さてどうしたものかと思った瞬間、我関せずといった状態だった生徒の一人がすっと手を上げこちらに声をかけてきた。
「……先生、私からも質問してよろしいでしょうか」
ざわついていた教室がこの少女の静かだがどこか威圧感のある声で、教室が徐々に静かになる。正直、この空気を変えてくれた事に心の中で感謝する。確か、資料では名前はオルカ=トパーズと書いてあった。黒髪黒目でマキラよりは若干長めのショートカットの美少女で、クラスの委員長的ポジションの存在らしい。
「……質問です。先生は何故こちらの学園に来たのですか?男性というのはひとまず抜きにして、あれだけの強大な魔力を持っているのに、何故単なる臨時講師という形でここへ来られたのでしょうか」
オルカの良い意味で淡々と、だが凛とした口調での発言にざわついた空気がぴたりと収まり教室に静寂が帰ってくる。
「あぁ、そうだったな。それも言っておかなきゃいけなかったな。俺、勇者パーティーに魔術師として参加していたんだよ。んで、魔王を倒す直前で色々面倒くさくなりそうで抜けたんだわ」
自分としては普通にありのままを言っただけのつもりが、今日最大のざわめきと驚きの声が教室に響き渡った。
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