第5話 経緯の告白、引き続き質問タイム

「は……はぁあああ!?あ、あんた本当に勇者パーティーにいたっていうの!?妄想とかじゃなくて?」


 自分の言葉が信じられないと言った表情でルジアが叫ぶ。先程の魔族との一件がなければ絶対に信じなかったであろうというのがこの表情から容易に想像出来る。


 そこから少し間を置いて、自分が魔王討伐直前に自らの意思でパーティーを抜けるまでの流れを大まかにクラスの皆に話した。勿論、夜遊びに関しての理由は言えば言うほど呆れられるか引かれるだけなのでそこはきちんとぼかしている。


 自分としてはそれに対してただ事実を述べただけなのだが、ルジアをはじめとした教室内の面々に衝撃を与えるには充分過ぎる発言だったようだ。話に茶々を入れることもなく、皆自分が話し終えるまで大人しく話を聞いていた。


「……って訳だ。ま、これは勿論俺自身も承知している事だが脱退した時点で俺が勇者に同行していた際に俺が成し遂げていた記録は一切合切抹消されているし、俺の代わりに入った魔術師がそれまでの功績を引き継ぐ形になったから当然学園にいるお前たちに伝わる事はまずないからな。ま、それが嘘だと思うのならそれはそれで構わねぇよ。今の俺にはそれを証明する手段は何もねぇからな」


 そう言うと皆、困惑した様子で自分を見る。先程の自分の様子と今の話を聞いてもまだ半信半疑、といったところだろう。


「……ま、今の話を信じるか信じないはお前たちの自由さ。信じないならそれまで。もし信じてくれるなら俺はそれなりにこれからも講師として手解きやアドバイスを出来るって事だけは約束するよ」


 そう自分が言うと、ナギサが元気よく手を上げてこちらに声をかけてくる。


「はいはーい。ねぇねぇリカっち聞いていい?そもそもさ、何で抜けちゃったの?勇者様のパーティーなんて誰もがなれる訳じゃないし、しかも魔王を倒すなんてこれ以上ない偉業な訳じゃん。地位も名誉も手に入るのに、何で自分からそれを放棄しちゃったの?」


 ……出た出た。陽キャや自分に自信のある連中お決まりの発言だ。たしかに俺がこいつの様なタイプなら自分が注目を浴びたら余裕で自分から満面の笑みでピースサインが出来るのだろう。だが自分は違うのだ。


「……お前はそっち側のタイプだから分からないだろうな。俺は自分が目立つのも、顔や名前が売れるのもごめんなんだよ。誰もが自分の顔や名前を認識する世界なんてまっぴらごめんだ。そこそこに楽をして生きて、程々に好きに出来れば俺はそれで良いんだよ」


 自分の言葉にナギサがうーん、と腕組みしながら言う。


「なーる。つまりリカっちは変化を恐れる保守的人間って事ね」


 根暗や陰キャ呼ばわりしないところにナギサの優しさを感じる。考えれば考えるほど悲しくなりそうなので早々に会話を返すことにする。


「……ま、そういう事にしておこうか。とにかく、俺はそのまま生涯偉大なる勇者様とその御一行っていう状況になる人生っていうのが耐えられなくて抜けたって訳さ」


 そう自分が言うと、黙っていたオルカがまた声を上げる。


「先生がパーティーを抜けた理由は分かりました。……ですが、まだ疑問が残ります。先生の魔法を見たのは先程の攻防でのほんの一瞬でしたが、それだけで分かるくらい先生の魔法の威力は相当の物でした。他にもかなりのレベルの魔法を使えるとお見受けします。……おそらく、このクラスの誰よりも」


 オルカの発言に、教室が一瞬静まる。次の瞬間ルジアが叫ぶ。


「ちょっと!いくら何でも流石にそこまで……!」


 激昂一歩手前といった感じでなおも叫ぼうとするルジアを手でぴたりと制し、冷静な口調でオルカが会話を続ける。


「お静かにルジアさん。今先生に質問しているのは私です。今は先生には私の質問に最優先で答えていただきたいのです。……それにそもそも、ルジアさんは誰よりも間近であの光景を見たのでしょう?」


 オルカの言葉に勢いを削がれ、言葉を飲み込み椅子に座り直すルジア。それを見届けてから更にオルカが会話を続けていく。


「……あの時、私もすぐに魔法を放とうと思いましたが炎と氷を防がれたのなら、次は何の魔法を放てばよいのか迷ってしまい、咄嗟に動けなかった私の前で先生が瞬時に発動した魔法は、ルジアさんに襲いかかった魔族の一撃をいともたやすく防ぎました。そして、その後に間髪入れずに放った魔法は魔族を一瞬で仕留めました。属性の得手不得手はあったにしろ、それらを超越して一撃で仕留めた先生の魔法の威力は、私たちでは到底及ばないものである事は間違いないかと思います」


 オルカがそう言ったところで、自分の方に改めて振り返って言う。


「リッカ先生、改めてお聞きします。先生の先程使われていた魔法……初めて見る魔法でした。少なくとも私は。あれはどういった属性の魔法なのですか?」


 さっきの魔法がよほど気になると見えるオルカの質問に答える。


「あぁ、それについても話しておかなきゃいけないな。あれは俺が冒険時に独自に構築して開発した魔法だよ。……とはいえ正直、俺もこいつについてはよくまだ分かってないんだ。答えになってなくて悪いなオルカ。一応、仮にではあるがどれにも当てはまらない属性だからってことで『光』って事にしてあるけどな」


 そう自分が言うと、先程とは違った意味で教室がざわついた。

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