パターン2 クラス会
冬休みに入って一週間。冬季講習という名の強制登校日も最終日を迎え、今日は12月24日のクリスマス。中には放課後デートを楽しみにする人もいれば、クラス会を企画する人もいた。うちのクラスは後者で、学級委員が中心になってクラスでカラオケに行くらしい。私は仲の良い友達がみんな彼氏とデートで行けないので不参加。みんながみんな彼氏持ちで羨ましいことですよ。まあ、我が家は毎年翼の家と合同でクリスマス会をしているからそれの準備もあるし、まあいいかと思っていた。それに、同じ理由で翼も行かないらしいし。
掃除当番を終え、教室で待っている翼を迎えにいく。2人で行けばちょうどいいからという理由で買い出しを頼まれたのだ。
「つばさぁ、お待たせ……あ、」
思わず扉を閉めてしまった。教室の中には机に座っている翼と、翼と話している女子が2人。委員長と女子A…改め菅野さん。告白……か? いや、冷静に考えろ。告白なら翼が座っているのはおかしいし、女子2人いたよな。なら告白じゃないか。いやあ焦ったわ。
頭をリセットしてもう一度ドアを開ける。この間およそ5秒程度。
「あー、ごめん。翼しかいないと思ってたからびっくりしちゃって閉めちゃった」
「いやほんとな。ハネ、急に閉めるから俺も思わず『え?』って声に出たし」
「間抜け声出てんよ。委員長と菅野さんもいきなりごめん、話の途中だったよね。気にせず続けて」
ポカンとしている2人を片目に帰り支度を始める。3人は特に会話をするでもなく、委員長と菅野さんは私の方にやってきた。
「羽村さん、相談があるんだけど、ちょっといい?」
翼にはギリギリ聞こえないだろう声で話しかけてくると、グラウンド前の木の下で待ってると教室を出て行ってしまった。ええ、私うんともすんとも答えてないんだけど。嫌な予感もしつつ、待たせるのも気が引けるので言われた場所に向かうことにした。
「ごめん翼、ちょっと人に呼ばれてるから一瞬行ってくるわ。すぐ戻ると思うからもうちょい待ってて」
「おー」
間抜けな返事を聞いて、言われた場所に向かう。2人はすでにそこで待っていて、私が着いたのを見かけると、ここだよと手を振った。私が2人の元に行くと、委員長が申し訳なさそうに話し始めた。
「あのね、今日のクラス会なんだけど、羽村さんからも羽柴くんに参加するよう誘ってくれないかな?」
「え、なんで?」
ほら、嫌な予感は当たった。多分さっき3人で話してたのはこの事だったのだろう。にしても、私も行かないのになんで私が誘えば行くと思ってるんだ。
「いや、私もいけないし、誘っても説得力なくない? 参加する2人から誘ったほうがいいと思うんだけど」
「あ、もちろん羽村さんも今からでも参加大歓迎だよ! 私たちからも誘ってみたんだけど家族で過ごすって誤魔化されちゃって……」
いやいや私はついでかーい。てか、ちゃんと理由付きで断ってんのになんでそこまでして誘いたいかな。まあ、家族で過ごすって誤魔化してるようにも聞こえなくはないか。
「家族で過ごすっていうの誤魔化しじゃないよ。毎年うちと翼の家で合同でクリスマスやってるから、多分そっち優先したんだと思う。私もそうだし」
「え、そうなの? 困ったなあ」
「何かあるの?」
「羽柴くん、結構いろんな女子から好かれてるんだけど、あんまり話したことない子が多いみたいで。みんなクラス会で仲良くなりたいみたいなんだよね。だから羽柴くんに参加して欲しかったんだけど、どうにかならないかな」
あーなるほど。めっちゃ下心じゃん。てか、女子ってでっかい主語付けとけばクラス女子の総意みたいに聞こえるけどどうせ一部の女子が勝手に言ってるだけだろうな。問題はどうやって断ろうってところなんだけど、どうすっかなあ。
私が悩んでると、それまで黙っていた菅野さんが口を開いた。
「羽村さんさ、前から思ってたんだけどやっぱり羽柴くんのこと独り占めしすぎだと思うんだよね。今回も家族のこと利用して一人で羽柴くんといるつもりなんじゃないの。羽柴くんはみんなの羽柴くんなんだよ? たまには他の頑張ってる子にも協力してくれてもいいじゃん」
またこいつは、入学式の頃から変わっとらんのか。だからそうじゃねえんだわ。クラス会行かないのは翼の判断で私の命令じゃないし、そもそも翼は誰のものでもないわ。
危うくツッコみそうになるところを必死に抑えどう返すか考える。
「まあ、翼が行かないって決めたことだしね……私がどうこう言っても多分変わらないと思うんだけど……」
「そこをなんとかならないかな」
委員長も意外としつこいな。なんて考えていると頭上から翼の声がした。
「あ、ハネー! 先生がいい加減帰れってさー! 用事終わったー?」
ナイスアシストです先生! これを理由にとっとと断って帰ろう。
「ってことだし諦めて帰ろう? それに菅野さんには前にも言ったけど、翼こういう裏工作みたいなの嫌いだからやめたほうがいいよ」
「……」
「終わったー。 玄関行くから私のも荷物持ってきてー!」
「分かったー! すぐ行くー!」
翼に返事をし、2人にもう一度目を向ける。
「まあ、そういうことだから私もう帰るね。ごめんね委員長」
「ううん、大丈夫。こっちこそ寒いのにごめんね」
「……羽柴くん、私たちのこと見えてたかな」
委員長が小声で呟いていたのを私は聞き逃さなかった。ああ、委員長もきっと翼のことが好きなんだろうな。多分、木が邪魔で二人のことは翼から見えてないだろう。見えてたら全員の名前呼んでるはずだから。
「大丈夫だと思う。木が邪魔で私のことしか見えてないんじゃない?」
「そっか、よかった。ありがとう羽村さん。また、冬休み明けにね」
「うん。ばいばい」
安心したような顔をして委員長は菅野さんを連れて帰っていった。私も玄関口に向かうと荷物を持って翼がすでに待っていた。
「遅い」
「ごめんて」
「まあ、いいや。早く買い物して帰ろう。今年は智兄も帰ってくるんでしょ。早く会いたい」
兄貴は大学進学で県外に出てたけど、今回は翼ん家の末っ子が来年小学生に上がるから、プレゼント持って帰ってくるらしい。……そうだ、こいつ兄貴のこと昔から好きだったな。クラス会断った理由、8割くらいは兄貴なんじゃない?
なんて、兄貴に少し嫉妬しながら、荷物を受け取り帰路に着く。案外、私の恋敵は1番身近にいるのかもしれないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます