幼馴染だって負けたくない!!!

李都

パターン1 連絡先

 高校入学から3日目。私は早くも修羅場です。心当たりはありませんと言いたいところですが、私を睨んでいる女子Aと女子Bの後ろに隠れるそこの女。昨日、私に話しかけてきたやつだな。ということはあれか、ひとつ心当たりがあったなと思いながら睨みつけてくる女子Aが口を開くのを待った。


「羽村さんだっけ。昨日ゆうなからのお願い拒否ったらしいって本当?」


 やっぱりそれか。確かに女子Aに隠れているゆうなちゃんとやらに昨日呼び出されたのは本当だ。気になっている相手の連絡先を私が持っているからほしいとお願いされた。


「本当だけど」

「は? ありえなくない? 連絡先くらい教えてあげればいいじゃん。ゆうながせっかく頑張って聞いたのに応援しようって気持ちないわけ?」


 いやいや待ってくれ。連絡先って個人情報だぞ。いくらLIMEとはいえ当人の許可なく教えるわけないだろう。それにあいつはそういうの嫌うぞ。


「いくらLIMEとはいえ、当人の許可なしには教えるのはどうかなって話は、そこのゆうなちゃんにも伝えたんだけど」

「え、いや、あの……」


 狼狽えるゆうなちゃんに、女子Aと女子Bがゆうなは悪くないよなんてなぐさめる。なんだこの茶番は。周りから見たら私がその子をいじめたみたいじゃないか。やめてくれよ。まだ高校生活3日目だぞ。友達作りもそこそこに学校生活が終わりを迎えてしまうじゃないか。


「あんた、性格悪すぎじゃない? 彼と同中だからって、調子に乗ってるんでしょ!」

「そんなことないけど」

「じゃあ、ゆうなのこと応援してあげようって気持ちになわないわけ!?」


 だいたい、応援も何も私は一方的には応援できないんだよ。お互い頑張ろうねとは言えるけれど。まあ、そんなこと言ったら火に油なのは目に見えてるから言わない。


「だから、……」

「おっはようございまーす!」


私の言葉を遮るように、ガラガラと大きな音たて大声で教室に入ってきた男子がひとり。そうです話題の当事者、羽柴翼くんのご登場。すんごいバッドタイミングだよもう。


「あれ、入り口前で何やってんの? 寒くない? まだ外雪残ってるよ。春なのにやだよねえ。あ、もしかしてこいつなんかした? 顔がきついから怖いと誤解されがちなんだよね」


 と、私の頭を2回ほど叩く。とはいえ力を入れて叩いているわけではないので側から見ると頭ポンポンされているようにしか見えないだろう。ああ最悪だ。本当なら嬉しい行為なはずなのにタイミングが悪すぎる。ゆうなちゃんは今にも泣きそうになり、女子ABは私を睨んでくる。そりゃそうだろうな、分かるよ分かるその気持ち。好きな人が他の女の頭ポンポンしてたらショック受けるわ。

 こいつの空気読めないところは尊敬するよ。呆れて声も出ないでいると、女子Aがこの状況を説明し出した。


「ゆうなが気になる人の連絡先を羽村さんが知ってるらしいから、頑張って聞いてみたらしいんだけど羽村さんが断ったんだよ。ゆうなせっかく頑張ったのに、ちょっと意地悪だと思ったから私たちが話を聞いてたの」


 それはそれは私が嫌がらせをしているかの如く説明する女子A。相当私が正義とでも言わんばかりの話し方だった。


「え、でも当人の許可なく連絡先教えるのはまずくない? 俺だったら知らない人からいきなり連絡来たらビビるし多分無視するよー。ハネも多分相手のこと気遣ってすぐに教えなったんじゃないかな。こいつ根はいいやつなんだ。幼馴染の俺からも謝るから許してやってくれないかな」

「え、」


 はいとどめ刺したー。ゆうなちゃんの頑張りとやらはそのお相手に否定された挙句、『幼馴染』というパワーワードが出たよ。見てて可哀想になってくるし、なんかこっちが悪いことした気分になる。


「それに、直接聞いたらそれきっかけに仲良くなるかもしれないじゃん。今の時期なら入学したてだし、聞きやすいと思うから頑張ってみるのもありだと思うよ。俺だったらその方が嬉しいし」


 この人たらしめ。フォローも忘れない優しさを見せたが、ゆうなちゃんはもう限界らしく泣きながら教室から出てってしまった。


「え、なんで? 俺酷いこと言ったかな?」

「さあ、まあ、ねえ。追いかけて話聞いてきたらいいんじゃない? 私はもうこの件には関わりたくない」


 当の本人がいないのでは女子ABに構う必要はない。私は席に着くために動こうとしつつ、翼を入り口から追い出す。翼はあれー、なんて言いながらゆうなちゃんの後を追いかけて行った。……カバンを私に放り投げて。




 しばらくして、2人は教室に戻ってきたが、どちらも特に離さないままお互いの席に戻っていった。私は翼と席が前後だからその後の話を尋ねると、ゆうなちゃんは大丈夫、びっくりしただけと話したらしい。そのあとは少し雑談をしたみたいだけど、怒ってないみたいでよかったなんて翼は呑気に話していた。まあ、ゆうなちゃんにとっては追いかけられたところでオーバーキルな気もするが。


「そういえば、お前誰の連絡先聞かれたの?」

「……え?」

「いや、だってお前の知ってる男子の連絡先なんて俺か智兄ともにいくらいじゃん」

「何、気になるの。私が他の男子と仲がいいかもしれないとか」

「気になる。だってハネと1番仲良いのは俺じゃん」

「……内緒」

「えー」


 はあ、こいつはサラッとこんなこと言うのに、絶対私のことを幼馴染としか考えていないんだよなあ。ゆうなちゃんも大概可哀想だったけど、私も結構可哀想じゃない? こんなに近いのに恋と思えば遠いのよ。

 まあ、幼馴染だからって恋路を諦めたくはないし、コイツの隣は誰にも譲りないんだけどね。

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