第6話「手掛かり」


 ぼくが倒れていたという場所に向かって三人で歩きながら話す。

 「そういえこの刀、精霊が宿ってるって言ってたけど、これにも何か特別な力があるのかな? ワザ、だっけ?」

 「祖父は『霊気の吸収と放出』の力がその刀にあると言ってました。わたしは見せたとおり刀に嫌われているので実際に見たことはないですけど」

 「やっぱそういうのがあるのか」

 ぼくはその霊気とやらの扱い方とか全くわからないし、そもそもぼく自信には精霊の加護は与えられていないし、暴走なんかしたらどうしようかと少し不安になる。

 「もし刀が暴走したら私のワザでなんとかしますので安心してくださいね」

 心を読まれたのか、それともわかりやすく顔に出ていたのか不安を口にする前に月守にそんなことを言われた。


 「ワザといえば、二人ってどんな力を持っているんだ? マレビトっていうのがどんなものなのかまだ良くわかってないんだけど…」

 「じゃあ自己紹介の延長ということで、わたしは身体強化ができます。身体強化はマレビトでなくても霊気を扱えるならできることではありますけど、わたしのは強度がかなり高いですよ!」

 攻防一体の力ということだろうか。シンプルが故に近接においてかなり使い勝手が良さそうだ。

 「実際にやってみますね、『光衣こうい』!」

 冬川がそう言うと彼女の体を白い光が纏った。強く、それでいて優しい光だ。かなり強い輝きのはずだが不思議と眩しくはない。恐らくこれが身体強化をした状態なのだろう。

 「これはすごいな…かなり戦闘向きの力みたいだけど、やっぱそういうこともあるの?」

 「そうですね、ワザを悪用しようとするやつばらも中にはいますから。それにマレビトとなったからには他のみんなを守らないといけないので」

 やはり不思議な力があるこの世界では身を守る手段は必要みたいだ。

 「次は私の番ですね。私はそうですね、せつなのようにこれと言い切るのは難しいのですが、言うなれば精霊と仲良くできる力、でしょうか」

 「確かに、美夜の力ってできることが色々ありますよね」

 「わたしは精霊たちの力を借りて色々なワザに変えることができます。精霊を飛ばして伝令に使ったりお札や杖などに精霊の力を込めたりと色々です」

 できることが多いというのも中々に便利そうだ。

 「美夜の力のすごいところは精霊を操るのに霊気を使わなくてもいいところですよね」

 冬川が突然そんなことを言った。

 「確かにそれはありますね」

 「それは、どういう意味だ?」

 「ワザを出すのに霊気の量ってかなり重要な要素なんですよ、例えばさっきわたしの身体強化は強度が高いって言ったと思うんですけどそれは全ての霊気を身体強化に使っているからなんですよね」

 その説明は理解できる。力を出せば出すほどその分強くなるというのはわかりやすい。

 「でも美夜の場合は精霊を操るのに霊気を使わなくてもいいので、余った霊気を他に充てることができるんです」

 「霊気を使わなくても精霊を操ること自体はできますが、私の霊気を込めればより強力に操れ、できることがもっと増えますよ」

 そういうことか、霊気という力について大分把握してきた。つまり霊気はゲームでいうMPのようなもので、消費量が多いほど威力も高くなる。そして月守の精霊を操る力はMP消費なしで使える、ということは彼女自身が持っているMPは丸々余っているわけだ。

 「なるほど、大体わかった気がする。あれ? ということは……」

 「恐らく、紅葉さんが気づいているとおりです。私は精霊を操る以外にもう一つ力があります。余った分の霊気を使って」

 思ったとおりだった。冬川が言ったように霊気が余っているなら他に充てているのではないかと思っていた。

 「その私のもう一つの力が、占いです。必ず的中するので結構役立ちますよ」

 「そういうこともできるんだ、しかも必ずって」

 「霊気をかなり消費するので何度も連続で使えるものではないのですが」

 二人ともすごい力を持っているようだ、マレビトという存在はぼくが想像していたよりもかなりすごいらしい。この世界は聞けば聞くほど驚くことばかりだ。だが、元いた世界ではあり得ないであろうことが目の前で起こっているこに状況を少し楽しんでいる自分がいるのを自覚できた。記憶喪失や異世界に対する不安もあるがそれよりも好奇心の方が勝ってしまっている。

 (まあ、それでもいいか)




 「見えてきましたよ、あそこです」

 そんなこんなでいつの間にか目的地に到着したみたいだ。倒れていたぼくが二人に発見されたらしき場所。気を失っていたぼくは覚えていないが、何か残っている可能性はある。残ってない可能性の方が高いかもしれないが、元々何かあればラッキーくらいのつもりだ。何もなかったとしてもそれでいい。

 「ここですね、ここで紅葉君を見つけました」

 二人に案内されて着いた場所は少し開けていて、ここだけ上から陽光が差し込むようになっていた。それ以外には特に変わったところはなさそうだ。生えている木や草花も周りと変わらない。

 「ここか…そういえば二人はどうしてぼくを見つけたんだ?」

 「精霊が教えてくれたんです、森の中で誰かが倒れているって」

 そういうこともできるのかと改めて月守の力の便利さに感心しながらも引き続き辺りに何かないか調べてみる。だがぼくの目が平凡な所為か特別なことは感じられない。

 「あのときはあまり周りに注意を向けてなかったですけど、良く良く見るとここ、少し霊気の量が多いような……」

 ほらやっぱり、常人には何もわからなくても冬川は何か感じ取っているようだ。

 「霊気って精霊が宿ると得られるんだっけ? それが残っているのって残留思念みたいなこと?」

 「その可能性もありますが、霊気とは精霊が持っている力なので、ヒトやものに宿っているものに限らず自然に存在しているものの場合もあります。わたしは美夜のように精霊を直接感じることはできないのでどっちかわからないですが…」

 「月守さんは、何か気付いたこととか…」

 月守も冬川と同様に何か感じ取っていないかと思い月守の方を見ればそこには、目を閉じ、両の手を胸に当てた状態で立っている月守の周りに様々な色に輝く球状の光が集まっていた。

 そのあまりにも幻想的な光景に言葉を失う。多彩な光に映える濡羽色の月守の髪がなんとも美しく、思わず見惚れてしまっていた。


 やがて月守はゆっくりと目を開き、それと同時に彼女の周りに漂っていた光は四方八方へと散っていく。

 「精霊が言うには、虚空に裂け目ができ、そこから紅葉さんが落ちてきたそうです。その前後はヒトもケモノも何もここに来てないようです」

 「それなら人為的なものよりも自然現象に近い可能性が高そうですね」

 「もし自然現象ならその裂け目ができる条件とか知りたいところだけど……さっき冬川さんが言ってた霊気の量が何か関係しているのかな?」

 「そうでした。私はここ、少し霊気の量が多いような気がするんですけど美夜は何か感じた?」

 「確かに精霊たちの動きが少し活発かもしれないです。ここだけ日が差しているからかもしれないですね…」

 異世界を繋げる裂け目となると開くのに必要な霊気の量が多いのだろか。この仮定が正解なのか、もし正解なら具体的にどれくらいの量が必要なのか、他にも条件はないか、そもそも本当に自然現象なのか、確かめたいことはたくさんあるのだが、今の時点では確かめようがないことだ。

 「他に目立った痕跡は見当たらないですけど、どうしますか?」

 「私は紅葉さんの意見を尊重したいです」

 「戻ろう、これ以上ここにいても仕方ない。二人のおかげで収穫は十分あったし」

 少なくとも今ここで得られる情報はもうなさそうだし、ここらが引き際だろう。

 「一人だったら来ても何もわからなかったよ、二人とも本当にありがとう」

 「そんな、わたしは大したことしてないですし」

 「良いんですよ、私たちだって気になっていましたので」

 二人はそんなことを言ってくれるが、今のところ彼女たちには借りしかない。しばらくの目標は二人に恩返しをすることになりそうだ。

 そんなことを思いながらも三人で来た道を戻るのだった。

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