第3話 歌声の導き
早朝、学園の理科室からは物音が響いている。
「ここがこうで、これをこうしてー」
熱心に研究に取り組んでいるのはヒカリだ。
「ふふふ、おもしろくなってきたー!」
どうやら彼女は先日どさくさに紛れて手に入れたくじら先輩の髪の毛の遺伝子を見て興奮しているようだ。
「この型はやっぱり地球上じゃあり得ない型かぁ。あれ、でもくじら先輩は地球出身だって言ってたはず?」
新たに湧き出た疑問はひとまず置いておいて目先の研究に集中することにした。
「人魚、ってことは鱗があるはず。サンプルが欲しいなぁ」
思案を巡らせていると、なにやら歌声のようなものが聞こえてきた。
「地球の言語じゃない、でもなんだかわからないけど気持ちが安らぐ,,,,」
歌声に引き寄せられるようにヒカリは中庭へ歩きだした。
中にはで歌っているのはくじら先輩だった。歌とはいっても小さな声で決して大きくはなかったけど、確かに心に響く歌。
(確か先輩はセイレーンの血を引いてるって言ってたっけ。でもセイレーンの歌声って確か,,,,,,」
そう、歌声がもたらすのは安らぎだけではない。時には人間に滅びをもたらすのだ。
暫く経って、歌い終わった先輩はこちらを見つめていた。
「あ、ヒカリちゃん。おはよう」
「おはようございます♪いい歌でしたよー」
歌を聞かれていたことを伝えられて先輩は恥ずかしがるよりも先にこちらの体調を尋ねてきた。
「だ、大丈夫!?なにか変なことなってない?」
あまりにも心配するからヒカリは驚いて返事をした。
「へ!?いや大丈夫ですよ?」
その言葉を聞いて先輩は安堵したようだ。
「よかったー!何かあったらどうしようかと思っちゃった」
"よかった。"
その言葉を聞いてヒカリは直感的に理解した。
先輩は、自分の力で人間を壊すことが出来るとわかっているんだ。
確かに人間が空想上の生き物だと思っているもの達からすれば人間というものは、土くれの人形のように脆く、弱い。
でもヒカリは、そんな人間だから、空想と分かり合えると思っている。
それが、科学だから。
「,,,,先輩は人間のことどう思っていますか?」
いつもニコニコとしているヒカリから笑顔が消え、眼は黒く染まっている。
「,,,,,,。」
しばらくの間沈黙が流れ、ヒカリはまた笑顔を顔に灯して口を開いた。
「まぁ、答えたくないなら大丈夫ですよ。無理に話してくれとは言いませんし。」
そこまで言い終えるとヒカリは不気味な笑顔を張り付けてくるっと一回転して先輩を見た。
「でもかわりにぃ、先輩の鱗、一枚くれませんか?」
「え?」
「くださいよぉ~、ウ、ロ、コ♡」
先輩は返事をするより先に走り出した。が、遅い。
「マ、マッドサイエンティストォ~~!!」
負けじとヒカリも追いかけようとするが、先輩よりヒカリのほうが遅かった。
「ま、待ってくださいよぉー!」
続く。
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