第625話 襲った女

「そうなんです。

話がわかりそうな人がいてよかった。

私はただレヴィアタン様の魔力を感じただけなんです。

あなた方に何も危害を加えようとか、

そんな危険なことは全く考えてなかったんですよう。

ちょっとだけ勢いがついてしまって、

ぶつかりそうになっちゃっただけなんです。

本当にごめんなさい!」


女はそう言って泣き始めた。

遼香は心底めんどくさいという顔をしている。

代田はどう反応していいかわからずに固まっている。

なんとなく察しているのは、

緑箋と夕乃である。

前の世界で言えば厄介オタとでもいうのだろう。

身なりからはかなりの上級魔族のようであるにも関わらず、

狂信的にレヴィアタンを崇拝しているようである。

魔族の中にもこのような感じになるものがいるのは、

流石に緑箋も驚いていたし、

本当にレヴィアタンの魔力をかなり感じ取れるところは、

ある意味驚異的ですらある。

一歩間違えばとても危険な状況ではあった。


「本当によくわかったわね。

危険がないとわかったなら、

こちらも別に問題にすることはないから大丈夫だよ。

レヴィアタン様とはちょっとした関係があって、

私たちもよくしてもらったの。

だからレヴィアタン様の魔力を感じたのかもしれないわね。

あなたも知ってる通りレヴィアタン様は、

私たちのようなものにも気をかけてくださったから」


夕乃はこの問題に対処し終わろうと、

女に優しく話しかけた。

しかし夕乃の思いとは裏腹に女の目の色が変わった。


「今なんて言った?

レヴィアタン様はお前らのことを気にかけただと?

レヴィアタン様は自分以外のことを気に掛けるような人じゃないだろう!

あの蔑んだ目で私のことをゴミのように汚いものとしてしか見ない、

あの目が最高なんだろうが!

私のレヴィアタン様を汚すとは許せない!」


女は激昂している。

夕乃はかなりびっくりしている。

この狂信ぶりは流石に対処したことがないようである。

遼香は拘束魔法が解けないように少し魔力を強めた。

代田は緑箋の前にスッとたち、

緑箋と夕乃を守るように位置を取った。

女は絶叫するように話しているが、

拘束魔法を解こうとはしていない。

ただ激昂してるだけのようだった。


緑箋は今ここでお前のレヴィアタン様はもう死んでるんだよ、

そう言ったらこの女がどうなってしまうのだろうかと、

一瞬だけ頭によぎった。

もちろんその考えは一瞬で消し去った。

こういう輩に対処する方法はいくつかあるが、

緑箋はどこかこの女に引っ掛かるところがあった。


「あなたはレヴィアタン様を愛しているのですか?」


「愛している?

私などがレヴィアタン様を愛しているなどと、

そんな感情を持つこと自体が烏滸がましい!」


女がさらに激昂し始めたところで緑箋は割ってはいる。


「わかります。レヴィアタン様をただただ思っている、

それだけなのですよね」


緑箋の言葉に女はピタッと動きを止めた。

そして顔だけゆっくり緑箋の方向に向けると、

緑箋と目を合わせた。

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