第624話 襲われそうになる緑箋

「また何かあるのか?」


無月が喋り出したということはレヴィアタンに関わることなのかと思って、

緑箋は無月に問いかける。


「ああ、俺の魔力に気がついた奴がいる。

もしかしたら何か仕掛けてくるかもしれない」


魔族の気配はそこらじゅうでしているので、

誰がこっちに注目しているかはわからない。

気配で察知できるのは、

レヴィアタンの魔力を持っている無月だけなのかもしれない。


「どっちの方角にいるかはわかるのか?」


「いや俺はそもそも魔法が使えるわけじゃないからな。

どこにいるかというような、細かい魔力を追えるわけじゃない。

ただ肌感覚として、何かに見られている、

何かに注目されているような感じがするだけだ」


「それが感じられることだって魔力探知の一つなのでは?」


「緑箋、今は細かいことを言ってる場合じゃないだろう。

周囲を注意深く見ろよ」


なんだかうまいこと無月にはぐらかされたような気もするが、

もしこちらの魔力を感じ取れているのなら、

それはそれでまずい状況になることは間違いない。

緑箋たちは警戒しつつも先に進んでいく。

すると緑箋が通り抜けようとした脇道の影から女が飛び出してきた。

緑箋目掛けて駆け寄ってくる。

しかしその女は緑箋には辿り着けず、

遼香はその女の肩を軽く触ると、

くるりと一回転するように地面に制圧される。

そしてすぐに腕を後ろでで拘束すると、

目立たないように、女が飛び出してきた脇道へ入って、

さらに人目がつかない路地へと女を連れ込む。

これではどっちが危害を加えているのかわからない状況であるが、

大きな建物の影に隠れるように女を押し込んだ。


「なんの真似だ?」


遼香はなんの感情もない声で問いただす。


「だって、だってそいつがレヴィアタン様の魔力を纏ってるから……、

絶対に私の方がレヴィアタン様を好きなのに……、

そんなぽっと出のようなやつが纏っていい魔力じゃないのに……。

なんでお前なんかがそんなにレヴィアタン様の濃い魔力を……」


何を言っているのか全員理解できなかったが、

どうやらレヴィアタンの魔力を感じているのはこの女らしかった。

女は耳が尖っていることを除けば、

人に近い容姿をしている魔族であった。

かなりいい身分の魔族のようで、

服装はしっかりした魔族独特の、ドレスのような、

ピチッとした黒いスーツ身に纏っている。


「なるほどね。

あなたはレヴィアタン様の魔力を感じ取って、

話が聞きたくて勢いが余って、

襲う形になってしまっただけなのね?」


夕乃は遼香とは違って優しさたっぷりに話しかける。

飴と鞭である。

この危険な状況において、

自分に対して好意を持っているというような言い方を感じると、

途端に縋りたくなるものである。

効果は抜群だった。

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