第621話 検問所にて
遼香のいう通り、
確かにここであわてている方が怪しく見られてしまう。
こういう時は小細工をせずに、
堂々としていた方が怪しまれずに済むこともあるかもしれない。
かなり心許ない理由ではあるが、
今は他に方法がない。
緑箋たちはそのまま通行するたえめに、
魔族たちの流れに乗って歩き続けた。
特に何も言われずに検問を抜けようとした時。
「おい、そこの四人、通行証を持ってないじゃないか」
検問所で監視している男に呼び止められてしまった。
「ほら、やっぱりなんかあるじゃないですか」
「通行証ってのは聞こえて来なかったからなあ」
呼び止められているものと、
普通に通り抜けているものの違いがよくわからなかったのだが、
どうやら通行証というものがあるらしい。
通行証を見せているわけではないように見えたのだが、
通行証を持っているものは普通に検問を普通に通れていたようである。
通行証というものを持っていないので、
これからどうするべきか相談もできないまま、
結局四人は隅へ連れられて行った。
「通行証がないようだが、どういうつもりだ?」
監視員は慣れた口調で恫喝するわけでもなく、
淡々と質問してきた。
おそらく通行証を持たずに通ろうとするものは結構いるのだろう。
「すみません、初めてなもので、
通行証というものを渡されていなかったようでして……」
こういう時は夕乃に任せるのが一番だということを、
緑箋と代田も学んでいる。
「なんだ、上層で仕事でもあるのか?」
「いえ、荷物を運ぶように言われておりまして」
「そういうことはよくあるんだよ。
悪いが通行証がなければここは通ることができない。
引き返して通行証を入手してからもう一度来てくれ」
監視員は特に何かを求めることもない。
賄賂なども通用しないようだ。
「わかりました。あのすみません。
あそこを通っている人も通行証を持ってるんですか?
何か見せてるわけじゃないみたいですが」
「ああ、通行証は別に見せなくても、
あそこを通る時に検知されるからな。
普通に全身検知されてるから、
忘れたとかいうことはない」
自動改札だった。
緑箋が前にいた世界よりもある意味進んだ仕組みである。
流石にどうすることもできないので、
諦めて別の手を考えるしかないかと思い始めた時、
そばにいた別の監視員が何かに気がついたようである。
「おい、ちょっと待て。
その服、もしかしたら、お前たち……
いやあなた方はサタン様のお使いじゃないんですか?」
カレンからもらった服はどういう服だかは知らなかったが、
胸の紋様は確かにサタンの紋様であった。
そこで夕乃はピンと閃いたようである。
「すみません。サタン様の使いでレヴィアタン様にお届け物がございましたが、
こちらの不手際でございまして、
通行証の発行がされていなかったようでございます。
これはこちらの問題ですので、
一度帰って確認してまいります。
こちらの巨大な門を通行できなかったという理由を説明させていただきますので、
よろしくお願いいたします」
夕乃は立て板に水とはまさにこのこととばかり、
滔々と口から出まかせを吐き続けた。
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