第619話 お昼の巨大な壁
魔族の男は喋り好きで面倒見が良いようで、
夕乃が何か困っている様子なのを感じて色々教えてくれた。
「そうか、ここにくるのが初めてだったら知らないかもしれないが、
ここは時間制だよ」
「時間制ですか?」
「ずーっと門番を置いとくのも面倒ってことらしくて、
朝昼晩と通行時間が決まってるんだよ」
「はい、それは聞いてましたが、
どこも通れるところがなくて」
夕乃は真実と嘘を混ぜて話を聞き出している。
「はははははは、まあそうだよな。
そこは話聞いてなかったんだな。
なかなかお前の親方も意地悪じゃないか」
魔族の男は笑っている。
「意地悪ですか?」
「そうだよ、きっと驚かせたかったんだろう。
あんたがた、こっちに来たのが初めてなんだろう?」
「そうですが、わかりますか?」
「着てるもんがこっちの領地のもんじゃないし、
これを知らないってことはこっちに住んでるんじゃないってのはすぐにわかるよ」
「そんなものなんですねえ。
で、一体何が起こるんですか?」
「お前さんのとこの親方が隠してたんだから、
俺がネタバラシするわけにはいかないよ。
まあお昼までもう3分もかからないから、
少し待っておくといいよ.
確かにこれはネタバラシしないで見た方がいいんじゃないかな」
魔族の男はそう言って笑った。
とても上機嫌である。
何が起こるのかはわからないが、
何かが起こるのを待っていれば、
時間で通行はできるようなので、
4人はこのまま待つことにした。
どこからかゴーン、ゴーンと鐘の音が鳴り響いた。
お昼である。
鐘がなると同時に、
目の前の巨大な壁に真っ直ぐな直線が引かれる。
いや、これは線ではない。
壁が割れているのだ。
巨大な壁に引かれた直線を中心にして
巨大な壁は左右にどんどんと分かれていく。
このあまりにも巨大な壁が音もなく静かに左右に移動していく。
そしてその壁の中には恐ろしいほど長い階段があった。
集まっていた魔族たちは我先にと階段の方へ向かっていく。
話してくれていた面倒見のいい魔族もそれに倣って階段へ向かう。
「じゃあ後は頑張れよ!」
魔族は爽やかに去っていった。
「ああいう魔族もいるんですね」
代田は少しだけ感心したようだった。
「カレンちゃんたちだって礼儀正しかったじゃないの」
「まあそうなんですけど。
やっぱり想像とは違いますね。
それにしてもこの壁すごいですね」
この巨大な壁が割れるとは思っていなかったので、
4人はかなり驚いた。
すぐに閉まることはないのだろうが、
ここでのんびりしてる訳にもいかない。
「さあ、我々も続こう。
夜まで待ってるなんてごめんだぞ」
遼香はもう急いで中に入りたいようだった。
待っている時間がもったいないのだろう。
4人は巨大な壁の中の階段へ向かう。
一段一段登るのは流石に面倒なので、
魔族に倣って魔法で階段を駆け上っていく。
それにしてもである。
階段はいくつあるのかわからないが、
かなりの奥まで続いている。
魔族たちもさまざまな用事でこの階段を登っているのだろう。
緑箋たちがまだ半分の登っていない頃に、
下層へ用のある魔族たちとすれ違う。
駆け降りるというよりは落ちているような感じである。
壁の上には下層とはまた違った風景が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます