第618話 大きな門の前で魔族と会話
「どうしたの?何か思いついたの?」
「いや、これだけの壁があるにしても、
結局下層と上層に行き来はあるわけじゃないですか」
「多分そうだね」
「じゃあやっぱりどっかに入り口がないと不便ですよね。
上空から運べるにしても、
撃ち落とされたら困りますし」
「そりゃそうだ」
しかし巨大な壁は横には数キロにわたって伸びているようだが、
みたところどこかに入口のようなものは見えない。
そもそもこの本通りのようなところの終点が壁なのである。
もし入口があるのだとしたら、
ここにあるのが一番確率が高いはずである。
なのでやはりここに何もないということは、
下層と上層の行き来はほとんどないということなのかもしれない。
「やっぱり迂回して奥から回ってみますか?」
代田が壁の続く遠くを見ながら言う。
一番手っ取り早いのはその方法だろう。
だがそんなことを考える輩もたくさんいるだろうし、
実際に側面から責められることももちろん想定しているだろうから、
あまり意味がなさそうとも思える。
みんなが頭を悩ませていると、
遼香がそろそろ本当に強行突破してしまおうという雰囲気になってきてしまった。
一つ戦争を起こしても問題はないのかもしれないが、
敵の本拠地のまん真ん中で争いを仕掛けるのは得策ではない。
どうやって遼香を宥めるべきかと考えていると、
街の方から魔族たちがポツポツとやってくるのが見える。
空を飛んでくる魔族たちもいる。
一人の魔族が緑箋たちの前に降り立った。
立派な翼を持っていて、
下層の人間にしては仕立てのいい服を着ている。
いい身なりをしている男の魔族である。
なぜかその魔族はいきなり話しかけてきた。
「おー随分早いじゃないか。
急ぎのようでもあるのかい?」
正体がバレているわけではないらしいが、
一応警戒はしながらも、
話を合わせることにする。
隠密活動というのは人に目立たないように行動するだけではない。
時には人の中に深く入り込まないと情報を集めることはできない。
火中の栗を拾う大胆さも持たなくてはならないのだ。
その辺りは隠密として活動している夕乃の得意分野である。
「急ぎというわけではないんですが、
今日は初めて親方に頼まれましてね。
少し早めにきたんです」
「なるほどなあ、そういうことか。
仕事の関係ってことだね」
「あなたはどうしてこちらに?」
「俺はご主人様に頼まれての買い物だよ。
上層の方がもちろん品はいいんだが、
うちのご主人様は下層の職人で気に入ったのがいてね、
そいつに頼んだ装飾品を取りに来たんだよ」
「そうだったんですね。
ところで私たち今回上層に行くのが初めてなんですが……」
「はははは、そうかいそうかい、
それで緊張して早く来たってわけかい?」
「そうなんですよ。ここって……」
夕乃は話を合わせながら魔族と会話を続けた。
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