第617話 巨大な壁の下で
四人は下層と上層を隔てる巨大な壁の前についた。
100メートルはあるような巨大な壁は東西に島を分けている。
しかし壁というのは物理的な遮蔽物としての効果はもちろんあるのだが、
魔法が使える世界においては、
それほどの意味をなさない。
飛べばいいからである。
特に魔族は魔法を使わずとも飛べるものも多いので、
壁で遮断するというのは効果的ではない。
人間界でも壁で城を囲うということも多いが、
平地からの直接攻撃を避けるために、
ある程度の効果はあるが、
魔法を使った戦闘においては心許ない防御になる。
基本的には通常は物理的防御によっての壁を使い、
本格的な戦闘時には魔法防御や結界によって、
侵入を防ぐということになる。
「さて、この巨大な壁だが、
普通にただの壁になっているな。
どこかに通路があるようにも見えない」
遼香のいう通り、ただの壁が続いている。
下層の農作物などを運ぶ必要はあるのだろうが、
別に何か特別な方法を取らなくても、
魔法の力で運べばいいだけという、
ある意味合理的と言えば合理的な考え方なのだろう。
そもそも上層の魔族が下層に行く理由はない。
逆に下層の魔族が上層に行く理由はある。
金目のものがある、食料がある、
そういう理由で上層を目指す魔族がいるはずである。
そのためにこのような巨大な壁が聳え立っているのである。
ではどうなっているのか。
夕乃は分身の術で分身を作り、
みすぼらしい魔族に変身させると、
勢いよく壁を抜けるように上空へ飛ばせた。
すると壁から煌めいて何かが発射され、
分身は消滅した。
「やっぱりそうだろうね。
迂闊に飛んでいたら、黒焦げになっちゃってたわね」
夕乃はなぜか嬉しそうに、
自分の分身が消滅したことを報告した。
「流石にこれでは飛んでは入れませんね。
どうしたらいいんでしょうか」
代田は頭を悩ませている。
「見た目で探知してるのか、魔力で探知してるのかわかりませんが、
結構な威力がありましたね」
「まあ別に防御したら入れないこともないんだが、
わざわざことを荒立てても仕方がないしなあ」
遼香はそう言いながらもめんどくさいような顔をしている。
強行突破したほうが早いと実力行使に出そうな勢いである。
流石にそれはまずい。
緑箋は壁の上を見ながら、
鳥が自由に壁の上を飛んでいるのを眺めていた。
鳥は攻撃対象に入っていないようである。
「鳥や虫は普通に飛んでるんですよね。
この場合って、どうやって敵を見分けてるんでしょうか」
緑箋は疑問を口にした。
「そうだね。各国でもこういう防御方法を取られているところも多いけど、
基本は魔力量と大きさなんじゃないかな。
鳥は魔力で飛んでるわけじゃないし、
脅威ではないからね。
翼を持つ魔族もたくさんいるけど、
流石に鳥とはその魔力量が全く違うから、
区別はしやすいんじゃないかな」
夕乃はそう話しながら、
遼香と緑箋が何か気にしていることに気がついた。
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