第616話 夕乃の驚き

「ちょっと待って!

ほんとに?

緑箋君、レヴィアタンを真っ二つにしたの?

嘘でしょ?」


流石の夕乃もレヴィアタンが真っ二つになったという話が信じられないらしい。

緑箋は別に隠していたわけでもないが、

大っぴらにして話していることもないし、

あの戦いの時の情報がほぼほぼ伝聞でしかないので、

それほどの正確な情報として記録されていなかったというのもあるのだろう。

魔法軍が到着する前に、

結果として退散させたということ自体が恐ろしい成果であり、

あの時の鬼や天狗たちも必死で戦っていたため、

結果のみを伝えることになってしまったのだ。

ただあの時はレヴィアタン自体も舐めてかかってきていたということもあり、

レヴィアタンが真っ二つになったというだけで、

致命傷ではなかったのだから、

あまり攻撃としては意味がないものであった。

緑箋の攻撃の最大の成果は、

魔臓を撃ち抜いていたことだったので、

そのほうが重要だったのだ。


「レヴィアタンが油断して舐め切ってたというところで、

結果的に真っ二つに斬れたというだけですよ」


「いやいやいやいや、いやいやいやいや、

何言ってんの緑箋君。

魔族に傷をつけること自体おかしな話でしょう。

遼香さんみたいな日本でも指折り数えるような実力者以外、

上級魔族、ましてや魔王と対峙できるような人間はいませんよ!」


夕乃は興奮し過ぎて喋り方から変わってしまっている。


「緑箋君が実力者っていうことじゃないのか?」


遼香はさも当たり前のようにいうが、

まだ子供の緑箋を見て、

そして緑箋の魔力量を見て、

そう思える人は少ないだろう。

別に夕乃が緑箋のことを侮っていたわけでも、

下に見ていたわけでもないし、

元々今回の遼香の予言の件において、

緑箋の情報も聞いていたのだろうが、

まさかという思いが大きいのだろう。

共に訓練を続けている遼香と代田とでは、

緑箋に対する感じ方が違うのは仕方がない話である。


「それはそうですけど、

まさか緑箋君がもうすでにレヴィアタンを真っ二つにしてたなんて、

夢にも思わなかったんですよ。

そうですか、だからレヴィアタンはあんなに執拗だったんですね」


夕乃はちくっと緑箋の心を刺してしまったことに気がついていない。

しかしそれは緑箋にとっては当たり前の言動であるし、

緑箋の反省点でもあった。

おそらく遼香は夕乃の発言に対して思うところはあったのだと思うが、

わざと深追いはせずにそのままにしておいた。

緑箋はその繊細な遼香の心遣いが嬉しかった。


「さて、そろそろ下層も終わりそうだぞ」


遼香は目の前を見ながらそういった。

すでにずっと目の前には巨大な壁が広がっている。

近づけば近づくほど大きく感じる巨大な壁は、

下層と上層を分けている。

そこに魔族の間の格差を感じずにはいられなかった。

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