第614話 魔王島散歩

魔族の島は人間界とは違う植生になっているため、

建築物は人間界とは全く違っている。

真っ直ぐに伸びている木を使わずに、

蔦や蔓が伸びているようなクネクネとしたものが、

壁を覆っている。

どちらかといえば丸みを帯びた形状をしており、

家と家の間は隙間だらけである。

その隙間には小さな魔族たちが勝手に生息しているようで、

家と家の間もアリの巣のように細かい生活道路になっている。


商店街には人間界と同じように、

八百屋や魚屋や肉屋などの食料品店、

何か料理を売っているような食堂、

洋服や装備品や装飾具などが売っている店、

怪しげな薬品や呪文を売っているような店など

様々な店が並んでいる。

ただ売っているものが人間界とは全く違うだけである。

人通り(魔物通り)も少なくはなく、

それなりに賑わっているようであるが、

それと同時に貧しいものたちも影に隠れて生きている気配がしている。

ここはまだ街のようなので、

ある程度栄えているような場所なのだろう。

下層であっても、

さらにその下にもっと貧困で苦しんでいるような魔族もいるようである。

店主の隙を見て、

食べ物を盗むような子供も多くいるようだが、

盗んだところですぐに魔法で取り返されたり、

拘束されて殴られてしまうようで、

魔族たちの暮らしも意外と治安は悪くなかった。


「なんだかもっと血で血を洗うような抗争をしてるのかと思いましたが、

そうでもないんですね。

人間界と似たようなものとは驚きました」


代田が素直な感想を言った。

緑箋も同じような感想だった。

売っているものは確かに違うし、

姿や格好も全く違うけれど、

その営みな人間とさほど変わりがない。

社会性を持つ生き物というのは、

そのようになっていくのかもしれない。

商店街は特に怪しまれることもなく歩いていくことができて、

やっぱり誰も他人にそれほど関心がないし、

魔族も人間と似たようなものであるなと再確認できた。


なだらかな坂道を登りながら、

商店街と住宅街のような場所を抜けて、

おそらく一番大きな道を進んでいく。

街の外にはやはりポツポツと家が建てられている。

そして広大な畑も広がっている。

あの家がこの広大な畑を管理しているのかはわからないが、

畑では魔族たちがしっかりと働いている。

空を飛べるので収穫もより簡単なのではないかと緑箋は思っていた。

腰を痛めることもないかなと、

したこともあまりない畑の仕事のことを想像したりした。


畑の近くには動物が飼育されている場所もあった。

牛に近い生き物がたくさん飼われている牧場のような場所へ近づく。

牛のような姿形なのは間違いないのだが、

みんながこの牛のようなものをみて、

本当に牛なのかと疑問に思ったのは、

この牛の大きさである。

象よりも大きい。

そして色も色彩豊かである。

まるで南国の鳥のよう色と柄をしている。


「可愛いけど怖いね」


そう言いながらも夕乃は明らかに、

この牛を見て喜んでいるようだった。

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