第610話 穴の終わりの前に

「さて、そろそろ旅行も終わりになりそうだな」


「楽しい時間はあっという間だねえ」


「私もこんな貴重な時間をいただけて光栄でした」


「今、旅行じゃないですし、

本番はここからですよ」


四者四葉の感想である。

のんびりしていた四人だったが、

本当にもうそろそろ魔王島につく距離になっている。

位置情報を確認しても魔王島まではもうすぐの距離である。

しかしあたりの様子は変わらずに、

敵の姿も見えないし、

探知しても何も引っかからない。

どうやら本当に逃げていってしまったようである。

穴が塞がれていない状況から見ても、

急いで逃げていたということになるのだろう。


レヴィアタンが帰ってくる可能性はあるし、

今のところレヴィアタンが消滅した、

正しくは無月に吸収されたという情報も、

まだどこにも漏れていないのだろう。


「さて、じゃあそろそろ準備をしておこうか。

夕乃作戦通り頼む」


「はいはーい。夕乃にお任せあれー」


夕乃は楽しそうにカレンたちから預かった服をみんなに渡す。


「まずカレンちゃんたちから預かったこの服で、

魔族ちゃんたちの鼻を利かせないようにしましょう。

魔族の鼻が鋭いとはいっても、

この服を着ていたら案外簡単に誤魔化せるんじゃないかしら。

人間が魔王島にいるなんて誰も思っても見ないでしょうからね」


緑箋たちはしっかり服に袖を通す。

別に何か匂いがするわけではないので、

本当にこれで魔族を誤魔化せるのかと、

緑箋は少しだけ心配になる。


「じゃああとは私の魔法をひとつまみっと」


夕乃はみんなの姿を魔族に見えるように幻影魔法をかけた。

変装といえば忍者である。

夕乃にかかればこのあたりの操作は簡単である。

むしろ得意分野すぎて、

余計な変装になっていないかの方が心配である。

三人はそれぞれを見渡して、

魔族っぽくなっていることを確認し合った。


「何なんですか、私の魔法がそんなに心配なんですか?

私の魔法はちゃんとしてますから、心配しないでください。

任務と趣味はしっかり分けてますからね」


夕乃は頬をぷくっとさせて抗議をした。

本当に頬を膨らます人がいるのだと緑箋はそれに感心してしまった。


「大丈夫ですよ、夕乃さんのことは信頼してますから。

この長旅の間にみんなしっかり理解を深めましたからね」


緑箋はそういって夕乃を信頼していることを告げる。


「ありがとう緑箋君。

その袖についてるうさぎも緑箋君にそう言われて喜んでるわ」


そう言われて三人は自分の服の袖を見る。

緑箋はうさぎ、

遼香はトラ、

代田はくま、

そして夕乃にはねこの顔が可愛くあしらわれている。

三人から抗議の目が夕乃に飛ぶ。


「何よちょっとしたいたずら心じゃない。

このくらいの余裕が任務には必要だし、

癒しの効果は良い結果を呼んでくれるんだよ?」


「夕乃」


夕乃の必死の弁解も聞かず、

遼香の一言で袖の動物たちは消えていった。

でも可愛かったなと緑箋は少しだけ残念に思っていた。

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