第607話 ぶつからない仕組み
「代田の場合は底知れない魔力があるから平気だろう。
まあでも、無駄な魔力を使わないことに越したことはない。
そういうことだから、空を飛ぶ時にぶつからないようにするにしても、
なるべく魔力消費は抑えたい。
そこで考えられたのが、
単純に魔力を多いところは避けて、
魔力の少ないところを飛ぶというふうになってるのさ」
「魔力の少ないところを飛ぶですか。
そんな単純な問題なんですね」
「タネを明かせば単純だが、
そこに気がつくまでには紆余曲折あったんだろう。
先人の努力によって、
我々が便利に魔法を使わせてもらってるんだよ。
それを当たり前のものとして使ってるが、
感謝はしないといけないよな」
遼香はそう言って背伸びをした。
理屈を聞けば簡単な話である。
簡単にいえばこの世界の物質は全て魔力を帯びている。
つまりこの穴の壁には魔力が多く含まれているということになる。
また人間や魔族も魔力を多く含んできる。
そこに近づかないように飛べばいいので、
壁にぶつかりそうになったらそこを避けて飛ぶということになる。
蝙蝠が超音波を飛ばした反射で物体の位置を把握するのと、
似たようで似ていないものだが、
似たようなものである。
「なるほど、魔法を探知する方法と、
その使い方も色々工夫があるってことなんですね。
どうやって壁を検知して避けるのかっていうふうに考えていたんですけど、
かなり単純な方法で検知して、
それでしっかり結果を出しているのはすごいですね」
緑箋は感心していた。
前の世界でいえば自動操縦のようなものである。
流石に前の世界で今のような仕組みで自動操縦は実現できないが、
それでも発想を一つの方向からだけで考えるのではなく、
多角的に考えるのは重要である。
そんなことを考えながらも、トロッコは止まらずに進んでいる。
「それにしても本当にずっとまっすぐだねえ」
あくびをしながら夕乃は寝そべっている。
まっすぐな穴だからこそ、
トロッコは無事に飛べているところもあるのだろうが、
これだけただ真っ暗な中をまっすぐ進んでいるのも不思議である。
岩肌に違いはあれど、
ぼーっとしていると本当にトロッコが進んでいるのか止まっているのかわからない。
ただ風が抜けていくだけである。
「でもおかしいですよね。これだけの速度でトロッコが進んでるにも関わらず、
まだ一人も魔族がいないし、
その痕跡もありませんよ」
代田も不思議そうである。
遼香は暇を持て余しているので、
緑箋に組み手に付き合ってもらいながら、体を動かしている。
「多分だが、逃げる手段は用意してたんだろう。
それがどんな魔法なのか、乗り物なのかはわからないが、
このトロッコのような乗り物があったのかも知れないな」
道に線路が引かれているわけではないので、
どのようなものがあったのかもわからないが、
逃げる手段というよりは、
来る時の乗ってきたものに乗って帰ったというのが正解かも知れない。
確かにこれだけの長距離を自分で移動してきたんだとしたら、
その労力は計り知れない。
一度はこの近くまで穴を掘った部隊もあった訳だから、
移動手段を確保していたのかも知れない。
穴はまだまだ続いている。
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