第606話 穴の中の暇つぶし

どういう仕組みかはよくわからないが、

トロッコは丸一日飛び続けている。

そもそもどうやって穴の中をぶつからずに飛んでいるのか、

まっすぐ飛んでいたらどこかにぶつかってしまうはずである。


もうすでに自分たちのことで話すこともあまりなくなってきて、

それぞれトロッコに横になってのんびりし始めている。

なので、緑箋はそんなくだらないことを口に出して聞いてみた。


「このトロッコってどういう仕組みで飛んでるんですか?」


「そういえば緑箋君は飛ぶのが苦手だったね」


「苦手というか飛べません」


「完璧完全超人かと思った緑箋君にも、

意外な弱点があるんだよねえ」


夕乃は龗のことを撫でながらくつろいでいる。

動物が好きなようである。

龗が動物かどうかは置いておくとして。


「苦手なものは他にもいっぱいありますよ」


「そうだねえ、たとえば……」


「それでどうやって飛んでるんですか!?」


「ええー色々知ってる情報があるのに」


夕乃は諜報活動のプロである。

緑箋のことも色々知っているようだ。

緑箋程度の情報でもたくさん入手しているのは流石である。

とはいえ、緑箋の今までの活躍と遼香隊への配属と、

魔法軍にとっても見過ごせない存在になっているのは確かである。


夕乃がいらない情報を喚き散らしそうになったので、

緑箋は強引に話題を修正した。

遼香も可哀想と思ったのか、

話題に乗ってくれた。


「空を飛ぶ魔法については今さら説明はいらないだろうが、

ぶつからない理由は簡単だよ。

魔力の少ないところを飛ぶように設定してるだけだ」


「魔力を感知しながら飛んでいるってことなんですか」


「でも魔力が少ないっていうだけでまっすぐ飛べるんですか?」


代田も気になってきたようである。


「まっすぐ飛んでるわけじゃないんだよ。

ぶつからないように飛んでるんだ」


「ぶつからないように?

そんなことができるんですね。

私は……どうやって飛んでるんでしょう。

でも自動で飛んでるという感覚はありませんね」


「まあ人によって色々だろうからね。

空を飛んでいる時だけじゃなくて、

高速で移動する時もそうだが、

一番危ないのは衝突事故だ。

これは物でも人でも同じだ。

だからなるべく衝突を避けるために魔力を感知しながら飛んでいる。

その中で一番単純なのが魔力量だ」


「魔力量ですか」


「ここでどこにどんな魔力を持っている生き物がいるのか、

なんてことを感知していたら魔力が勿体無いだろう?

ただでさえ空を飛んで魔力を使ってるのに」


「確かにそうですね。

私なんかは空を飛ぶのが大変なので、

すぐに魔力切れを起こしてしまうかもしれません」


そんなことはないだろうとみんなは笑った。

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