第604話 長い穴の途中

「まあ実際は魔王島の情報はほとんどないに等しいわね。

まず魔王島の近くに近づける人間が少ないでしょう。

別に強力な監視体制が引かれてるわけじゃないけど、

侵入は厳しいでしょうね。

魔族は人間よりも鼻が効くから。

魔王島だけに限らないけれど、

魔界に行って帰ってきている人間はほとんどいないわね。

転送装置で移動できるようになって以降は、

空を飛んで移動する人も少なくなったから、

余計に情報が少なくなったわね。

それでも昔は船で流れ着いたなんて話も聞かなくもないけど、

やっぱりそれもなくなってしまって、

今がどうなってるのかはよくわからないの」


魔界について魔族が何か隠しているということはあまりないようで、

自分の魔力を隠すつもりもないま僕にとって、

人間は取るに足らない生き物でしかないので、

わざわざ実力を隠す必要がないのである。

むしろ魔力を見せつけて絶望感を与える方が好きなのだろう。


「やはりその程度の情報になってしまうよな」


「申し訳ないけど、そうなるわね。

どちらかといえば、日本周辺の監視や対策になるから、

魔王島の中までの情報はわからない。

遠くから監視はしているけれど、

大きな動きはここ数年なさそうだし。

ただレヴィアタンもサタンも魔王島から姿を消していることは何度かあって、

おそらくは暗黒大陸の方に向かっているんだと推測されている。

その時期に一斉に各地の島から魔王がいなくなることがあるから、

まあ会議をやってるんでしょうね」


それについては遼香も知っているが、

今は緑箋たちにも情報を共有する意味で伝えている。


「今はサタンはいるってことですよね」


「そうね、サタンがいないという情報はないわ」


「カレンさんたちもそういってましたからね。

カレンさんたちがきてくれて、

なんだかちょうどよかったですね」


「偶然なんだろうが、

こういう流れというのは良くあるな。

それはいいのか悪いのかはまだわからないが、

おそらくはこの流れには逆らわない方がいいんだろう。

こういう時は無理矢理な動きをしない方がいいというのは、

私の経験則だな」


「それは私も良くわかります。

向かい風に抗ってもうまくいきませんからね。

偶然に起こった出来事が、

後から見ると必然としか思えないことがよくありました」


代田の歴史の重みのある言葉である。

代田自体は泰然自若として、

世の中に逆らわずにずっと生きてきたのだろう。


トロッコはそのままの速度で穴の中を進み続けている。

東京からハワイまでは飛行機で8時間程度かかる。

トロッコもかなりの速度が出ているとはいえ、

いくら早くても3日はかかる距離である。

だからこそ今回も探知されにくかったということもあるのだろう。

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