第593話 無月覚醒
「無月が喋ってるのか……?」
緑箋は恐る恐る無月に話しかける。
「だからそういってるじゃあないか。
ようやく俺の言葉が届くようになったんだから、
こんなに嬉しいことはないぞ」
無月はそういって笑った。
どこから喋っているのかわからないが、
ちゃんと喋り声は聞こえている。
テレパシーの類ではないようである。
「ようやくってことはずっと喋ってたってことなのか?」
「まあそうだな、それについては難しい問題だな。
俺は喋っていたかもしれないが、
それが通じていなかったのなら、
俺は喋っていなかったかもしれない。
もしかしたら俺の意識があったかもしれないが、
俺の意識が通じていなかったのなら、
それは俺の意識がなかったからかもしれない」
何をいっているのかはわからないが、
ずっと何かを伝えようとしていたのかもしれないということはわかる。
緑箋も時折無月から感じる物があったので、
それは無月の意思があったからなのかもしれない。
「それでなんで急に喋れるようになったんだ?」
「それはレヴィアタンが俺に吸収されたからだな」
「吸収されたの?」
「まあこれについても難しいところだな。
魔族の命というのもなかなか複雑でな。
単純に消滅させただけで命がなくなるということでもないらしい。
ただ今回のレヴィアタンの魔力の大部分は私の中にあるというのは事実だ。
これによってレヴィアタンが復活する可能性はかなり少ない。
だがレヴィアタンが私に封印されているというわけでもないようだな。
これはまだ検証が必要だろう」
緑箋は無月がもしも喋るとしたら、
どちらかというと物静か、滅多に喋らないような印象だったのだが、
めちゃめちゃ喋ることにびっくりしている。
想像というのは自分の願望の投影であり、
夢月の美しさから緑箋はそう願っていたのだが、
現実はかなり厳しい物である。
ただちゃんと自分の現状を理解して教えてくれるのはありがたい。
やはり喋らなければ思いは伝わらないのだ。
カッコつけて無口でいるよりも、
しっかり自分の気持ちを伝えた方がいいということを、
緑箋はこの世界に来て学んでいる。
「レヴィアタンの魔力によって無月が喋れるようになったってことは、
無月の中にレヴィアタンが反映されているということはないのか?」
レヴィアタンが封印されて、
レヴィアタンが無月を通して喋っている、
そんなこともあり得るのではないかと緑箋は思った。
「確かにそう思うのも無理はないな。
だがさっきも言った通りレヴィアタンが封印されたということはなさそうだな。
俺の中に魔力が溜まって意識が届くようになったんじゃないかな。
仕組みが気になるのはわかるが、
じゃあ魔法がなんで使えるのかってことを考え始めたら、
眠れなくなるぜ」
なんだかうまいこと言い逃れされたような気もするが、
無月のいうことにも一理はある。
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