第573話 起こらない予言と弛緩する気持ち

そう言ったことで緑箋は諜報活動を行うことはなくなりそうだったが、

スキルについての情報交換はとても役になった。

夕乃の忍術はスキルなので、

忍術スキルがなければ使えないし、

緑箋のスキルについても同様ではあるが、

その効果の内容から、

自分のスキルを見つめ直し、

さらに強力なものにする、

また新しいスキルを使用できるようにする、

などということはかなり重要である。

緑箋たちはこうやってお互いの能力を惜しげもなく出し合って、

お互いの力を高め合っていた。


この世界でも自分の魔法やスキルを開示するというのは、

結局相手に対策を取られやすくするためなので、

隠しているのは当たり前である。

戦闘になれば隠していて倒されてしまっては意味がないので、

スキルも積極的に使っていなければならないし、

その使い所が重要になってくるわけだが、

緑箋は今までいろんな人と訓練をする機会をもらって、

その情報によって様々なスキルも開発することができた。

もちろん前の世界のゲームや漫画なんかからの知識を、

この世界でうまく具現化していることは大きいわけだが、

実際にそれを使っている人間の能力を間近に見れて、

それがどのような効果をもたらしているのかというのを、

肌で実感できることほど勉強になることはない。


緑箋は想像していたこと具現化できることが楽しかったし、

その具現化した能力を自分の体に叩き込むために、

訓練を続けていて、

それに賛同してくれていた多くの人たちのおかげて、

急成長を遂げているということだ。

まあその相手が日本の最高戦力であり、

世界の最高戦力の一人であるのだから、

その効果は絶大である。


結局数日間は何事も起こらず、

通常の仕事と訓練で時間は過ぎていった。

何か遼香に危機が迫っているという情報も入らず、

魔族襲来予報も特になさそうであり、

一行の緊張感も次第に途切れてくるようになった。

それもそのはずで人間は常に緊張していられないようにできているし、

同じ刺激には慣れてしまう生き物である。

目前に危機が迫った状態であればまた別だが、

何がくるかわからないという状況であれば、

だれてしまうも仕方がない。


緑箋も念の為、白龍寮には欠かさず連絡をとり続けていたが、

白龍寮の方にも変わりはなかった。

単に守熊田と咲耶との会話を楽しんでいただけになってしまっていた。


ただ、緑箋たちの緊張案は失われたが、

遼香と守熊田だけはどこか緊張感を漂わせていた。

遼香は特に何も言わなかったが、

守熊田は常にまだ気を抜くなということを繰り返し忠告してくれていた。

何も起きなければそれでいい、

ただ何か起こった時に後悔だけはしないようにしろと、

口を酸っぱくなるほど繰り返して忠告してくれていた。


緑箋はこの百戦錬磨の二人が持つ経験値からくる、

何かを察する本能は本物であるとわかっているので、

二人の緊張が解けない限りは、

自分もしっかりしようと思い続けることができた。


そしてその日はやってきた。

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