第569話 よく喋りよく食べる

「私もお腹減ってるんです!

こんなに美味しそうなご飯なんて久しぶりですよ!

いつもは兵糧丸ですからね。

栄養満タンではあるんですけど。

流石に飽きちゃうんですよね」


兵糧丸とは忍者の携行食として有名だ。

米粉やきな粉に、

ごまや生薬や魚粉、

さらに蜂蜜などを混ぜてだんご状にして、

それを蒸した食べ物である。

中身は決まってはおらず、

作り手によってさまざまである。

日持ちがして高い栄養を持っているものというのが共通なところであろうか。

いつでもどこでも食べられるというのは利点ではあるが、

やはりそればかりでは飽きてしまう。

忍者として隠密作戦を行う場合はやはり長期間に及ぶこともあるので、

なかなか大変である。


「ほら遼香も朱莉も、ご飯が冷めちゃうじゃない。

いただきましょう!」


「さんざん喋ってたのは夕乃だろうが。

でもご飯は食べないとな。

さあ、いただこう」


三人はいただきますと声をそろえると、

ご飯を食べ始めた。


「いやーほんとに美味しい。

たえさんの料理の腕は一流の料理人に匹敵しますね。

ゾードさんもザゴーロさんもお上手です。

何より愛情が入っているから、

とっても美味しいです」


「ありがとうございます。

美味しく召し上がっていただけて嬉しいです。

でもなんでこの料理を作った人のことがわかるんですか?」


たえの疑問はみんなが思っていることである。

確実に遼香と共に行動しているはずの時間帯なので、

この料理がどうやって作られているか、

夕乃が知る由もないのだが、

全てお見通しである。

これには流石に一同驚いている。


「ふふふ。見たらわかりますよ。

いつもの料理はたえさんが作っているから、

その美味しさは変わりません。

ただそれ以外の料理は味付けと切り口がたえさんとは違っていますからね。

あとはそれを誰が作ったのかということです。

そして愛情がこもっているということが伝わってくるので、

見ていなくとも答えは誰でもわかります。

でもほんとに美味しいですね。

この寮に住みたくなる気持ちがよくわかります。

流石に味まではわからなかったのでね。

今日は食べられてほんとに嬉しいです」


夕乃は饒舌に喋りながら、

器用にご飯を食べ続けている。

これもまたある意味特殊能力である。

遼香と朱莉は慣れているようだが、

他のみんなはその様子を見て呆気に取られている。


「まあというわけで、

私から話すことはもうないかもしれないが、

今日から夕乃が私の警護に着くことになった。

こう見えてかなり優秀だから、

私に関しては心配しなくていい。

悪いけど、

ご飯だけは用意してくれるかな?」


「もちろんです。喜んで!」


「たえさんありがとう。

こんな美味しいご飯が食べられるだけで、

この任務を受けた甲斐がありましたよ!」


相変わらず食べながら夕乃は喋り続ける。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る