第568話 可愛い忍者

夕乃の話は止まらない。


「神出鬼没のこの夕乃が、

今回は遼香ちゃんのことをお守りいたします。

もちろんみんなのことも、

機会があればいつでもお守りしますから、

ご安心ください」


忍者というのに全く忍ぶ気が感じられない女性は、

影から徐々に姿を現した。

夕乃は、身長は緑箋よりも少し高めだがかなり小さい。

目鼻立ちは平凡に見えることもあれば、

角度によっては絶世の美女にも見える。

クリクリとした大きな目が特徴的で、琥珀色の輝きを放っている。

顔にはいつも笑みが浮かんでおり、

その笑顔は太陽の光のように周囲を明るく照らす。

忍者なのに。


「普段は影に潜んでいることが多いので、

こんな風に姿を見せるのは珍しいので少し恥ずかしいですね。

口数も少なくなってしまいます。

人見知りであまり喋るのが得意ではありませんが、

みんなとは仲良くしたいと思っているので、

よろしくね」


立て板に水とはこのことである。

口から出る言葉が全く止まらない。

どこか人見知りだというのか全くわからない。

そして一人一人名前を言って簡単に好きなものとか苦手なものを言っていく。

言われたみんなはびっくりしているが、

さすが忍者である。諜報活動はお手のものである。

カレンたちのこともすでに情報収集済みであるらしい。

もちろん肝心なことは口には出さなかった。

そこは諜報活動をしているものとしては当たり前なのであろう。


夕乃は喋りながらひらひらと袖を翻す。

彼女の衣装は、真っ黒の忍者の装束だが、

明らかに違和感があるものが胸や袖や太ももなどについている。

黒猫や真紅のハートなどの模様がついている。

隠密には明らかに向かない模様のはずである。


腰には小刀が挿されている。

その小刀の鞘には、可愛らしい桜の根付けがピンク色に輝いている。

可愛いが忍者としてはみたことがない。

そんなみんなの気持ちを見透かしたのか、

心を読んだのかわからないが、

自分から紹介し始めた。


「この服は、自分で作ったんです!

忍者の格好って、なんだか味気ないじゃないですか。

それに、いつも影に隠れているのもつまらないので、

少しでも華やかになるようにって、工夫したんです。

どうです? 可愛いでしょ?」


基本的には可愛いので、みんなは称賛しているが、

果たして称賛していいものかというのは疑問ではあった。

遼香も朱莉も微笑ましくみているようなので、

これはこれで受け入れられているのだろう。


夕乃はさらにくるくると回りながら自分の姿を見せた。

彼女の髪は、栗色の短髪だが、

これまた桜のかんざしが揺れている。


「かんざしも自分で作ったんですよ!

小刀と一緒になるようにしてみたんです。

桜が揺れているのが可愛いですよね!」


夕乃は、本当に楽しそうに笑う。

その笑顔は、まるで太陽の光のように周囲を明るく照らすかのようだった。


流石にここまで明るいとなんだか認めざるを得ない感じになって、

結局みんなも笑顔になってしまい、

いつの間にか夕乃の空気に包まれていた。

これも忍術ならばものすごい忍術である。

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